第二章 サイダー

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 ねえないの、一枚くらいないの、としつこく尋ねると嫌そうな顔で言われる。 「あるけど、絶対見せない」 「なんで?」  その質問にはなかなか答えてくれなかった。  黙々と自分の取り皿に具材を掬い、こちらにも入れるように促してくる。  それから苦々しげな顔をしながら口を開いてくれた。 「……すっごく言いたくないけど」 「うん、なに?」 「私と坂本の趣味ってすごい似てるから、見せて惚れられたら困る」  言われている意味がしばらくわからなくて、わかった瞬間に吹き出してしまった。  個室の壁を飛び越えて聞こえそうな笑い声になってしまって申し訳ないけど止められなかった。  だめだ、これは笑ってしまう。  ひいひいと笑う僕につられたように高藤さんも笑った。 「そうなったら悲惨だねぇ」 「ほんとだよ」 「僕たちこの歳になっても二人揃って失恋するのかって話だしねぇ」  けらけらと笑いながらも、高藤さんとならそれでもいいかな、なんて思ってしまう。  さすがに言わないけどね、怒られちゃうから。 「ていうかさ、坂本の方こそどうなの」 「この前盛大に振られて以来傷心中だってば」 「坂本振られる率高いよね」  わかってるんだから言わないでよ、とふてくされた顔をしてみせる。こっちだって望んでそうなってるわけじゃないのだから。  そう言うと、ごめんごめんとおざなりに謝られる。  次は上手くいくといいね、と本当に思ってるのか思ってないのかよくわからない言葉に頷きながら、おたまで豆腐をごっそり掬った。
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