第二章 サイダー

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 それほど同窓会に期待なんてしていなかったのだけど、久しぶりに昔のクラスメイトと会って話すのは思っていたよりは楽しかった。  それに学校はとても懐かしかった。  同窓会のお知らせのハガキに同窓会は高校の体育館で行うと書いてあって、実は少し興味があったのだ。  高い位置にあるバスケットゴールをぼんやりと眺めながら、ここでご飯食べるのすごい不思議な感じがするな、なんて思った。  幾つか置かれたテーブルの上に置かれているのは主に買ってきたオードブルの類だけど、なんだか非日常を感じて楽しいことに変わりはない。  どっかのお店に行くのもいいけど、こういうのもいいよなぁ、と思っていると懐かしい声が耳をくすぐった。 「あれ、透くん?」  自分でも驚くほどにその声を鮮明に憶えていたのだと、聴いてからわかった。  誰かなんて問うまでもない、考えるまでもない。 「綾坂さん、久しぶり」  ゆっくりと振り返ってから言ったその言葉はいつも通りにできていただろうか。 「久しぶり、元気だった? 透くん、変わんないねえ。あ、でもちょっと大人っぽくなったかも」  元気だよ、と返しながら、変わらないなぁと思う。  なにも変わらないといえば嘘になる。髪型や格好が昔よりもずっと洗練されているように見えるし、柔らかに弧を描く目はあの頃よりも大人びているようだ。  それでも、変わらないと思う。優しい声が変わらない。  どこが好きなの、と真奈のどこが好き、と高藤さんに尋ねられた時、たくさんあり過ぎてたどたどしい答えになってしまって、それでもあの声がどうしようもなく好きなんだと答えたことをよく覚えている。
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