3人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
それからまたなんてことのないたわいのない話をした後に真奈は、またねと手を振った。
坂本は少し未練がましく真奈を見ていたけど、すぐに諦めたように頷いて離れていった。
その間、私は一言も話していない。話す気もなかった。
今だって、歩き出した真奈から半歩遅れて着いて行くだけだ。
「あの人、絶対真奈のこと好きだよ」
坂本の背が見えなくなった辺りで、私は思わず真奈に言った。
言ってすぐに後悔に襲われる。
そんなこと、言ってどうするというんだ。
えー、と明るい声を上げて真奈がこちらを振り向いた。
真奈は表情一つ変えずに楽しそうに笑う。
くすくすと鈴が転がるように艶やかな笑い方は、高校一年生とは思えないくらい大人びた雰囲気を醸し出していた。
いつもは幼く見えるくらいなのに不思議だった。
そんな真奈に私は否応なく惹きつけられる。
「そうなのかなぁ、とは思ってるよ。でも好かれて嫌な気もしないよね」
だって好かれるって嬉しいことだもん、と自分に自信がある人しか言えない言葉を、真奈はいとも簡単に言った。
いや自分に自信がある人でも、そう易々とは言えないか。
真奈のような人は本当に一握りしかいないのだと思う。
真奈の言葉はいつも自分に言い聞かせているようにも響く。
自分が愛されるべき人間だということを忘れないためだろうか。
どちらにせよ、他の女子が聞いたら嫌がるだろうなと思う真奈の言葉を、私はどうしても嫌うことができない。
全然気づかない、と鈍感な振りをされるよりよほどいいと思う。
それでも私はなんてことなさそうに、ふーん、と気の無い返事をしながら、ストローを奥歯できつくきつく噛み締めた。
最初のコメントを投稿しよう!