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人気のない飲み物が外の自動販売機に追いやられているのだという噂を聞いたことがある。
まさかそんな風に決めているわけがないと思うのだけど、いちごオレを買う人が少ないのは事実だ。
外の自動販売機は夏なのにお汁粉だとか冬なのに冷たいだけで美味しくないスポーツ飲料だとかが置いてあるから、あながち間違いでもないのかもしれない。
「いちごオレ、おいしいよね」
真奈がそう言いながらストローを咥えた。
そうだね、なんて私も曖昧に頷きながら自動販売機のボタンを押して、今日もまたいちごオレを買う。
私が本当はいちごオレが大して好きじゃないことなんて、きっと真奈は気づきもしないのだろう。
気がつこうとすらしないのだろう。
「あれ、綾坂さんたちだ」
私もいちごオレを手に入れたから、じゃあ帰ろうかと振り返った時、坂本がいつもの涼しげな様子でそこに立っていた。
露骨に顔を顰める私とは対照的に、真奈は楽しそうに笑って手を振った。
「透くんはなにを買いに来たの?」
「サイダー。ここにしか置いてないんだ。コーラとかは中にもあるんだけどさ」
坂本は夏だというのに少しも日焼けしていなくて、とても白い指でボタンを押した。
私の日焼けした肌とは正反対の手だった。正反対の人間だった。
たったそれだけのことに、私は何故だか無性に苛ついた。
帰ろうと誘ってくる真奈に対して私は首を振る。
「ごめん。先に行ってて」
そう? となんの疑問も持たない様子で、真奈は笑いながら私を置いていってしまった。
真奈は少しも気にしていないんだろうなと思う。
私が真奈に誘われて断ったことが初めてだなんて、真奈はまるで気にしていないだろう。
「どうしたの、高藤さん」
坂本は少し面白そうな雰囲気でそう問いかけてきたけど、目は笑っていないように見えた。それが少しだけ恐ろしい。
だから私はやっぱり坂本が苦手だ。
「別に大したことじゃないけど。なんか最近よく会うよね」
ここ最近、ずっと気になっていたことをぶつけてみる。
坂本が私のことを睨んだあの日から、やたらと私たちは、いや坂本と真奈は鉢合わせる。
クラスが別だというのに、移動教室や休み時間にまで頻繁に坂本と会うのは、偶然とは思えなかった。
「もしかして、わざと真奈に会いに来てる?」
坂本のことが怖いと思っていることなんて少しも表に出ないように、そう揶揄する風に言ってみた。
もともと高い自分の身長が少しでも高く見えるように、威圧的に見えるように、私はみっともないくらい必死に胸を張っていた。
「悪い?」
心底面白いものでも見るように、馬鹿にするように、坂本は言った。
冷ややかな目だった。
「好きな人に会いたいと思うのって、そんなにおかしい?」
私が怯んでる間に坂本が畳み掛けた。
そんなに大それたことを言うつもりはなかったのに、するつもりはなかったのに、ただ少し言ってやりたいだけだったのに。
好きという言葉に、私は思わずかっとなってしまった。
「真奈は他に好きな人がいるの。坂本なんか好きじゃない」
きつい言葉だと思った。
自分で言っておきながらなんて酷い言葉だろうと思ったし、私だったら絶対に怒るだろう。喚くだろう。最低だと罵るだろう。
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