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だからもうこれ以上の言葉が口を飛び出す前に、坂本から離れようと思ったのに、坂本はそれを許してはくれなくて、まだ言葉を続けた。
「好きな人が他にいたら、近寄っちゃいけないの? それ、本気で言ってる?」
坂本が声を上げて笑った。
大きな声ではなかった。いつも通りあまり大きくはない控えめな声だった。
けれど不思議なくらい私の頭に強く響いた。
まるで物を知らない幼い子どもを見てつい笑ってしまったという風に坂本は笑ったのだ。
ひどくカンに触る笑い方だった。
「じゃあ、なんで高藤さんは綾坂さんのそばにいるの?」
いとも簡単だと言いたげに坂本は私に問いかける。私を追い詰める。
まさか、気づいているとでも言うのか。
まさか、でも、まさか。
本人にさえ気づかれていないのに、まさか。
「わ、私は真奈の友達で」
私の必死の抵抗を嘲笑うかのように坂本は言葉を止めない。
「でも好きでしょ」
その瞬間、世界が止まった気がした。
うるさい蝉の声も、肌にまとわりつく生温い風も、目の前にいる目が笑っていない坂本さえ、一瞬すべてが止まった。
息が詰まる。世界が回る。苦しい。
どうして、という思いと、恥ずかしさが交差して、そしてそれがふつふつとした怒りに変わっていく。
「好きなことがその人のそばにいられない理由なら、高藤さんも綾坂さんの近くにいられないはずでしょ」
違う? ねえ違うの? 怒る私に気づかず、坂本は私を追い詰める。
「なんで、なんで知ってるの。なんで坂本が」
それを言ってしまえば肯定することになってしまうと分かっていたのに、言わずにはいられなかった。
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