3人が本棚に入れています
本棚に追加
「だって、好きって理屈じゃないし」
その声は穏やかで優しくて、一人で怒っている自分が馬鹿みたいだった。
「綾坂さんのことを見る目が、僕と一緒だなって思ってたまたま気づいただけだよ」
馬鹿になんてしてないということはもう伝わっているのに、坂本はたどたどしく言葉を続けた。
ひどく幼い仕草だ。
こんな人に私は怯えていたのかと拍子抜けした気分だった。
坂本は別に私を馬鹿にしているわけでもなく、軽蔑しているわけでもなく、ましてやそのことを笑っているわけでもなく、ただ私と同い年の男の子だった。
「好きだからそばにいたいっていうのもわかるし、本当に馬鹿にはしてないんだ」
私がひどいことを言ったのに、坂本はそのことを責めるつもりはないようで、申し訳なさそうに肩を縮めていた。
「いつも綾坂さんと一緒だから、ちょっと羨ましいなって。意地悪言ったかな。ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだけど」
「泣いてない!」
坂本の突拍子も無い言葉に、今度は怒りではなく恥ずかしさで、また叫んでしまった。
確かにちょっとそういう気分ではあったけど、泣くなんてそんなことないはずだ。多分。
じゃあそういうことにしておくけど、と私が元気になったのが分かったのか、坂本がそう言いながら笑った。
「僕ら、同じ人を好きになっただけだよ」
私が投げたいちごオレを拾って、私に手渡してくれた。
その時、少しだけ触れた坂本の手は涼しげな様子とは打って変わって温かかった。
最初のコメントを投稿しよう!