第一章 いちごオレ

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 体育の時間はあまり好きではなかった。  うちの体育教師はガミガミと叱るタイプじゃない。  だからあまり動かなくても怒られることはない。  そんなこともあり、他の同級生たちには人気のようだけど、そもそも私は運動が好きじゃないのだ。  率直に言って休みたい。単位の関係で我慢するけど。  でも最近では、その体育がほんの少しだけ楽しみだと思うようになったその理由はちょっと癪だけど。  人数の問題で溢れた私は体育館の隅に座って、真奈が気乗りしない様子で行うバスケを眺める。できればこのまま授業が終わってほしい。 「かわいいよね、綾坂さん」  何故か三角座りで私の隣に居座っている坂本が思わずといった風に恍惚と言葉を零した。  あれからというもの、なんとなく私と坂本はこうして時々話をする仲になった。  あんなに苦手だと思っていたのに、不思議だとは自分でも思う。  でも好きな人のことを好きだと隠さずに言えるのは私にとって初めてのことで、それが不服ながらくすぐったいほどに嬉しいのだ。  だから、こうして合同体育の時間に暇を持て余して近寄ってくる坂本のことを追い払うことができない。 「言い方が、なんか」  でもその言い方はいかがなものか、と口を挟むと、坂本がしれりと言い切った。 「だって、かわいいじゃない。高藤さんは思わないの?」  思うけど、ともごもごと告げる。  周りに人がいないのは確認済みだ。いたら言えない。こんなこと。 「ほら、動きとか。見た? バスケットボール怖がってる。かわいい」  真奈が小動物のようにボールを避ける様子を見て、坂本が愛しげに目を細めた。気持ちはわかる。
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