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最終話:中
多くの乗客が鎌倉高校前駅で降りる。
「あ!アニメと同じユニフォームの人がいる!!」
「ああ。踏切の前でアニメのオープニングと同じポーズで写真を撮るんです。特に外国人に大人気!」
ぞろぞろと続く人の波は、駅からすぐの踏切前で止まる。
電車が通過してからが、撮影シーズンだ。
親子連れも、若者もいる。人々が、次々に笑顔でポーズをとっている。
「玄、見て!あの親子、同じユニフォームだよ!!すごい!可愛い!!」
真木は大興奮だった。こらえきれず、玄が笑い出す。
「真木さんも、撮ってあげましょうか?」
赤くなって頷く真木と、人がいない瞬間を狙った。
恥ずかしそうに、後姿でポーズをとる真木に、玄は一人興奮した。
踏切を渡って、二人で海に向かう。
どこまでも続く水平線。
明るい海の様子は、季節が変わるだけで全く違うものになっていた。
サングラスを付けていなければ目を開けていることもできないほどの眩さだ。
海岸には、まばらにしか人がいない。
暑すぎる時間帯の為か、踏切だけが目的なのか。
盆を過ぎた海は、ピークを越えたのかもしれない。
真木が嬉しそうに波打ち際に走った。
屈んでいたところに、大きく寄せた波を浴びる。
「あーっうう、濡れた⋯⋯」
ストライプのシャツを脱いで、下に着けたTシャツにハーフパンツ姿になる。
ばさばさシャツを振っている。
「げーんー」
こちらに気づいて、ぱたぱたと走ってくる。
「マジか⋯⋯」
眺めていた玄は、しゃがみこんだ。
「⋯⋯接近、禁止です」
「なに?」
見上げると、自分を覗き込む真木の前髪から、光る雫が零れた。
Tシャツが体に張り付いて、目のやり場に困る。
──乳首まで丸見えなんだけど。
「あんた、ほんとに何もわかってない」
無防備すぎる想い人に腹が立った。
思わず、目の前の唇に噛みつくようにキスをする。
真木の唇は柔らかかった。
少し塩味が混じる。
顔にぼたぽたと、幾つも雫が落ちてくる。
「んんっ」
真木の腕を引き寄せて、もう一度深くキスをする。
舌を入れて、頬の内側を嘗め回して。
絡みつく真木の舌を吸い上げる。
照りつける太陽と自分の中に湧き上がる情欲に蕩けてしまいそうだった。
バランスを崩した真木は砂まみれになって、自分の腕の中に倒れ込む。
長いキスの後に、はぁと息を吐いて力を緩めた。
真木の顔が赤くなり、少しだけ頬がふくれている。
やたら色っぽい顔のままで拗ねたように言う。
「わかってないわけじゃ、ない」
「ふ────ん」
玄は、濡れたシャツにちらりと目を向ける。
真木の耳元で囁いた。
「俺が今、何考えてるか、わかってるんですか?」
「⋯⋯わかる。ぼくも、玄が欲しいから」
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