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最終話:下
砂浜を歩く間、二人とも口をきかなかった。
ただ黙って、手を繋いで歩く。
海辺の小さなホテルを見つけた時、真木の体がびくりと震えた。
安心させるように、玄が強く手を握る。
部屋に入った途端。
玄は、ドアに真木の両手を押しつけるようにしてキスをした。
「玄、シャワー⋯⋯」
「嫌だ、待てない」
角度を変えて、二人は何度もキスをする。
玄が舌を絡めれば真木が吸いあげる。
口の中を探りあううちに、堪らずお互いの体に手が伸びた。
玄は、真木のシャツをめくり上げて、左手でぴんと立った乳首をつねった。
「や⋯あぁ」
真木の足が、がくがくと崩れ落ちそうになる。
乳首を弄りながら、真木の首筋を吸い上げて、次々に赤い痕をつけていく。
「げん。こ、ここじゃやだ」
「⋯⋯こんな、なのに?」
玄が、真木のハーフパンツの中に右手を入れる。
真木の口から細い悲鳴が上がった。
「や!あぁんっ!」
細い手が、玄の背中に縋りついた。
──可愛い、かわいい、かわいい。
嫌々と首を振る姿も、目尻に浮かぶ涙も。
──男を抱こうと思ったこともないのに、なんでこんなに。
玄の下半身も痛いほどに張り詰めていた。
「イって、まき。俺の手で」
玄に一際強く擦られて、真木の先端から熱いものが溢れる。
真木は、呆然として力が抜けている。
抱えるようにしてベッドに運んだ。
真木の服を全て脱がせて、上から見下ろす。
ふくらみの無い男の体を見ても、少しも嫌な気持ちはしなかった。
それどころか。
「真木の男だ」
真木に触れた男が、自分だけじゃないことに歯軋りしたくなる。
──この体を全て、舐めて溶かしてしまいたい。
真木の体なら、足の指の先まで口に含みたかった。
ベッド脇に置いてあったローションを手に取って、手のひらで温める。
男同士のやり方は、ネットで見ただけだ。
「げ⋯⋯ん」
真木の瞼と唇に安心させるようにキスを落とす。
抱きしめて舌を絡めた後、ゆっくりと真木の両脚を開いた。
玄は、真木の中にゆっくりと指を沈める。
真木の口から甘い声が漏れた。
「⋯⋯え?」
玄が目を見開く。
「たしか、なかなか入らないって⋯⋯」
真木は、真っ赤になって目をそらす。
「⋯⋯た、から」
真木が消え入るような声でつぶやく。
「⋯⋯家で、準備、したから」
そんな言葉を聞いて。
もう、止まれるはずがなかった。
「まき、気持ちいい?」
「ン!いいっ⋯」
「指でいいの?欲しいものは?」
「げん⋯⋯ほし⋯っ!げんがっ!!」
「⋯⋯ん、あげる。こっちも、も、ムリ」
真木の細い足を限界まで開き、ナカに進める。
真木の体が大きくはねる。
「んっ!!あぁんっっ」
「⋯⋯くっ」
もっと、突き上げたい。もっと、もっと。真木の、奥の、奥まで。
玄は硬く更に張りつめていく自分を感じた。
「まき!ごめっ」
細い腰を掴んで思いきり引き寄せる。
「あぁあっっ⋯!」
真木の中が熱くうねって玄を包みこむ。
「んっ!あんンっ!!」
真木の中で熱く滾った雄が一際膨れ上がり、迸る精を吐き出した。
玄は、指1本動かせそうにない真木の体を抱きしめていた。
何度も何度も真木の中に注いだ。
触れたくて、愛しくて。
この手の中にいるのが、まるで夢のようだった。
瞼に口づけると、真木がふっと目を開けた。
栗色の瞳が玄をとらえると、あどけない子どものように笑う。
玄は思わず、唇にちゅっと軽いキスをする。
「玄、大好き」
真木も、そう言ってキスを返した。
「うん。⋯⋯うん」
真木は知らなかった。
玄の驚きを。
寝入ってしまった真木を起こさないよう、玄は必死で、抱きしめる力を抑えた。
翌朝、真木はベッドから動けなかった。
ルームサービスで食べ物を頼み、ゆっくりと昼過ぎに部屋を出た。
「梅雨があったなんて嘘みたいだ」
海を眺める真木の瞳には、どこか寂しさが滲んでいる。
「玄、雲が動きはじめてる。一雨くるかもしれない」
真木の指さす先に。
灰色の雲が湧き、見る見るうちに入道雲を覆っていく。
パラパラと雨が砂浜に点を打つ。
「土砂降りの雨の中で踊るのって、楽しい?」
真木の手を引いて走りながら、思いついたように玄が言った。
真木が栗色の瞳を輝かせた。
「いつでも、教えてあげる」
繋いだ手を、玄はもう一度しっかり握りしめた。
【 了 】
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