強風

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「はあぁ~ん! カプリちゃぁん! 迎えに来たわよ!」 「がんばったわねぇ~! えらかったわよぉ!」 「!!!」  豪華絢爛。豊満重厚。月光に照らされて青白く浮かび上がったその姿は……なんて言ったらいいんだ…………。  はっきりした顔立ちの、派手派手しいグラマラスな美女二人が、触手に絡まれながら甲板に降り立った。正直言って、目のやり場に困る豊満な胸に、ひきしまった腰、豊かな尻まわり。青みがかった豊かな髪の若い女と、緑がかった髪を高く結い上げた女。  ……いつもは酒場の女についてしっとりと語り合う荒くれ者の船乗り先輩諸氏も、この色気の暴力のような存在には、ただただ茫然と毒気を抜かれたように立ち尽くすのみだった。  カプリは二つの豊満な胸の谷間に挟まれてもみくちゃにされて、虚無みたいな表情を浮かべていた。妹に罰ゲームなんて科す姉たちと聞いて、さぞかし意地の悪い感じなのかと思いきや、全然真逆の扱いをしているように見える。むしろ、激甘猫かわいがり……。  カプリの顔中にキスマークが増えていく。  さんざん妹カプリを愛でたあと、二人の姉はニンゲンたちに向き直った。 「主様の機嫌を損ねぬように、普段はこの海域の静穏を守って何人の侵入をも拒んでおるのだが……」 「今宵は、可愛い妹のたっての頼みと馳せ参じた。……ところで、こちらのニンゲンの中に、我らの可愛い妹御を泣かせた不届き者がおるとか……?」  形の良い厚い唇の端をゆがめて、緑の髪の美女が目を細めた。整った美しい顔で凄まれると寿命が縮まる心地がした。  船長をはじめ船乗り先輩諸氏の冷たい視線が背中に刺さる。 「……はい。俺のことです」  逃げ場はない。脂汗を流しながら、小さく手を挙げた。 「ほう……」  青い髪の女の方が、小首をかしげて値踏みをするようにじっくりと俺を見つめた。 「おまけに甘~い砂糖菓子で誘惑したとか? ニンゲンごときが何様のつもりじゃ」 「落としてあげるとか……ンまぁ、生意気なテクニシャンですこと」 「えっ? いや! そんなつもりでは決して!」  緑髪の方がキッとにらみつけた 「では、どんなおつもりで妹御を誑かしたのじゃ?」 「たぶら……??? えええ?」  何か、勘違いが起きている。それだけは分かったが、ここで言ったらきっと殺される。 「我らが可愛い妹御の選択にはどうこういうつもりはない」 「我らはそこまで野暮ではないからの」 「ただし!」  カプリと同じく水掻きのついた長く美しい指が、俺の鼻先に突き付けられた。 「責任はとっていただく。次、妹御を悲しませたら……」 「我らは容赦せぬぞ。では、さらばじゃ。ごきげんよう」  巨大な蛸とともに、三人の歌姫は海底に消えた。  船が着水し、波が落ち着いたころ、ようやっと皆、魔法が解けたように力が抜けてへたり込んだ。 「セイラン、お前また、随分なものと関わり合いになったもんだな」  船長が肩を叩いた。 「や! 船長! 違うんです! そんなつもりじゃ! そんなつもりじゃなかったんです!」  こうして帰路の船上、先輩諸氏に取り囲まれながら、カプリとの顛末を告白する羽目になった。
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