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俺ら青の民は、船を住いとする海洋民族だ。朱の国、黄の国、緑の国の入江にそれぞれ港を持ち、自治権をもっている。
青の民には、船上で生まれて産湯をつかった者から、港に出入りするうちに船上の生活にハマった大陸や島の者もいて、内情は色々だ。
俺は生粋の青の民。両親は緑の国の港街に住まい、漁師をしている。港に入っている船も様々で、貨物商船から客船、漁船、客相手の釣り船もある。
居住船は停泊地域が決まっていて、だいたいが河口近く、波の影響の少ない場所にあり、気ままな船上生活が好きなものたちが集まって、艀のような大小の船がひしめく町を形成している。船の隙間が運河のようになって街路を無し、小舟が馬車代わりに行き交う。
どうして青の民のような民族が生まれたのかは、知らない。大陸が長らく混沌とした戦乱期に入った時、争いごとに嫌気がさした一部の人々が、陸に見切りをつけ、海上に安息を求めたとも聞く。そんな話を幼いころ子守歌代わりに聞かされた時には、天候に左右され、時に「板子一枚下は地獄の窯」と揶揄される海上が安息の地になりうる時代があったのかと、怖くなってかえって眠れなくなったものだ。
俺が世話になっている船は二本マストの中規模の商用帆船。三十人程の先輩船乗りと一緒に住んでいて、まだ下っ端の俺が居住している部屋は中甲板の隅っこだった。切っ先に近く水きり音がうるさい上によく揺れる。あてがわれた個人用の寝床の壁には、売れ残った商材の中から、気に入ったものをもらい受けて仕舞ってある収集箱がひっかけてある。多くは輝石の原石、あと、くず水晶。クロガネ船長の船に乗る切っ掛けになった夕焼け色の縞瑪瑙は、ネックレスにして肌身離さず持っている。要は、キラキラしたものや奇麗なものに魅かれるのだ。高級品を扱う商船は危険度が高いと、両親には反対されたが決意は揺らがなかった。
いつか、自分の船を持つ。キラキラした商材でいっぱいの宝船を操るのだ。それが俺の夢だ。
カリヤス親方から一対の笛をもらった時、ふと思い浮かんだものがある。
カプリ……。
あいつ、笛は吹けるのかな?
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