9人が本棚に入れています
本棚に追加
だいぶん沖まで出てきたところで、何かの声を聴いた。波間に目を凝らすと、何かが浮いている。海獣の類かと思ったら、帆柱の上で遠眼鏡を覗いていた船員が慌てて降りてきた。
「船長! 歌姫です!」
「何? 海域には近づいていないはずだぞ!」
「何か触れてはいけないものに触れてしまったのか……」
「まさか……あの水晶が……」
甲板が騒然とする。胸騒ぎの原因は、これか?
その時、耳をつんざく怪音が響いた。皆、あわてて耳をふさぐ。
でも、……この音、俺は聞き覚えがある!
カプリだ!
「船長、この件、俺に任せていただけますか?」
「セイラン、どうするんだ?」
「おまえ、沈められるぞ?」
「俺に、考えがあります。船を減速して俺を下ろしてください」
船長は怪訝な顔をしてうなずいた。
果たして、甲板から縄梯子で卸してもらった俺は、カプリと話ができる海面すれすれまで来た。波が荒いので気を抜いたら落っこちる。
先輩船員たちは心配そうに手すりから身を乗り出してのぞき込んでいる。
「セイラン!」
白波立つ波間から顔を出していたのは、やっぱりカプリだった。
「姉さんたち、ほっとけって言ってたんだけど、セイランが乗ってる船だから、たまらず来ちゃったよ」
「何? どうした?」
「あんたたちの船を追って、三艘の小型帆船が来てる。よくない雰囲気。多分、ヤバいやつら」
「……え?」
「絶対逃げた方がいい! うちらの海域に入っていいから!」
「わ、わかった!」
慌てて甲板に戻る。カプリも波間に消えた。
最初のコメントを投稿しよう!