強風

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「船長、海賊が来てます!」 「なんだと?」 「歌姫が教えてくれた。三艘の小型帆船だそうです。で、……歌姫たちの海域への侵入を許可してくれました」  甲板に出ていた船員皆、顔を見合わせる。  いつもなら該当海域に近づこうものなら問答無用で沈めにかかってくる歌姫だ。誘い込んで沈没なんてことはないだろうな……。  皆の顔に疑いと緊張の色が見て取れる。  その時、帆柱の上から悲鳴に似た声がした。 「船長! どこの船籍か判別不明の船が三艘、こっちに向かってきます!」 「ええい! 解ったセイラン! お前らを信じるぞ!」   船長は操舵室に駆け込んだ。船員は急いで帆の調整にかかる。  船は、歌姫の住まう危険海域に舵を切った。  怪しい三艘の船は、小型で身軽故、じきに視界に入ってきた。追いつかれないようにと祈りながら帆を操る。船員みな必死だった。  どれほどの時間が過ぎただろうか。三艘の船は、一定の距離を空けたままぴたりと付いてくる。こちらの息が上がったところで追いつくつもりなのか、こっちの行き先がわかって躊躇しているのか……。後者ならありがたいが……。  その時、シュッと高い音がして視界を明るい何かが横切った。火矢だ。海賊は帆を燃やしてこちらの動きを奪う気だ。帆には防水防腐のための脂が引いてあるから、わずかな火でも下手に燃え移ったら大変だ。慌てて船員が海水をぶっかける。  該当海域まであと少し。波が荒れているので、あちらの矢の精度もいまいちなのが幸い……と思ったら、ドンッという衝撃と共に体が浮き上がり、次の瞬間、甲板に叩きつけられた。船員の怒鳴り声が響く。 「鉤爪だ! 船尾を捉えられたっ!」 「おうよ! カリヤス親方の、秘密兵器出してやれ!」 「……秘密兵器?」  帆柱にしがみつきながら、つぶやくと、年かさの船員がにやりと笑った。 「綱をぶっちぎる油圧鋏よ。反動でこっちも揺れるから、しっかりつかまってろよ」 「おう、セイランよ。相手は小型だ。鉤爪搭載してもせいぜい船に一機! 簡単に止められてたまるか!」  船尾に数人の船員が集まり、掛け声をかける。 「せえのぉー!」  バッツンという音と再度の揺れ。そして、上がる歓声。 「ざまみろ! 反動でバランス崩したぞ!」 「火矢に気をつけろ! まだくるぞ!」  みんなバタバタ動き回っているのに、ダメだ、俺、何もできない。帆柱にしがみついて、海に落ちないように踏ん張るのに精一杯だ。  と、視界の隅に甲板に這い上がってくる白い腕を認めた。
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