強風

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「ええっ!」  ギョッとして顔を向けると、カプリが上半身を起こしているとこだった。飛び交う火矢をよけながら、こちらに這い寄ってくる。 「じきにこっち側だから。姉さんたち、説得した。手伝ってくれるって」 「え? 何を……?」 「歌うから!」 「は?」  カプリは息を吸い込み、大音量で歌いだした。 「----------- !!!!」 「ぐわぁ~!」 「ぎゃぁあー!」  至近距離で怪音を聞かされた方は、たまったもんじゃない。船員たちは取るものとりあえず耳をおさえて蹲った。  その時、カプリの声に被せるように空気を切り裂く笛のような高音が響き渡った。片腕で帆柱につかまっていたので、片耳しか抑えられなかった俺は、まともにその声を聴いた。  臓腑が浮き上がるような何とも言えない高揚感のあと、胸をかきむしられるような渇望が訪れ、思わず帆柱から手が離れた。 「だーっ! んもう! 姉さんたちの歌聞いちゃダメ!」  カプリが俺の耳を押さえつける。頭ごと押さえつけられて何も見えない。 「あらやだ……、あいつら耳栓してるわ」 「ん?」  海賊は歌姫対策に抜かりがなかったようだ。カプリは舌打ちした。 「ちょっとごめんなさい。自分で耳おさえてて」  甲板の端まで寄ると、海に向かって腕で大きくバツ印をする。歌が止まった。   と、同時に船全体がふわりと持ち上がった。  船員一同、今度は慌てて甲板に這いつくばる。  大波に乗り上げたのか? の割には、船体が浮き上がったまま下らない。  一体、何が起きたのか分からなかった。 「あー。予定より早く、主様起きちゃったわ」 「主……様?」  顔を上げると、カプリの後ろ、海中から一気に巨大な壁がせりあがった、 「!」 「うわあぁ!」 「なんじゃこれは!」  それは、小島のように巨大な蛸だった。  船体は、蛸の足に持ち上げられて、海上高く固定されていたのだ。  追手の海賊船は、蛸が海面に浮上したことによって生じた大きな渦に巻き込まれ、乗組員もろともバラバラに散って海底へと吸い込まれていった。 「こりゃ、ひとたまりもねぇな……」 「……こ、こえぇ……」  海面を見下ろし、みな一様に息をのむ。  続いて海中からあがってきたもう一本の蛸の足に、二人分の人影が見えた。
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