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穏やかな夕凪なのに、重いため息しかでてこない。
今日も、船長にこっぴどく叱られた。商材の箱を、うっかり取り落としてしまったのだ。疲れてたとか、重かったとかじゃ済まされない。
繊細な細工物が入っている荷なのだから、万が一粗相があっては工房から取引を断られる。それがどういうことなのか分かっているのか。
……頭を垂れて反省するしかなかった。
すみません。以後気を付けます。
額を地面に擦り付けて許しをこうた。
船員の中では一番若く、一番非力なのはわかっている。それでも、先輩に負けないようにと気負うあまりについ、無理をして失敗する。
……また、ため息。
埠頭から、ぼんやり沖を眺める。太陽はゆっくり水平線に沈み、今は残照が赤く空を染めていた。遠く波の上に、ぽっつりと岩が見える。港に入る船、出る船が航路を分かつ目印になっている岩だ。
「ん?」
岩の上に何かいる。
海の獣か?
目を凝らす。
視力には自信があるが、黄昏時の光の弱い中では俄かに何であるか判別が難しい。
……いや、あれは? 人か?
岩の上にうずくまって座り込んでいる人影がある! なぜあんな沖に?
何らかの理由で陸に戻れなくなったのか? 慌てて左右を見渡して、係留してある手漕ぎ船に目を止める。ロープを手繰って乗り込むと、急いで沖に漕ぎ出した。今ならまだ、残照に浮かび上がる岩を視認できる。荒い息をつきながら、必死で櫓をこぐ。大きな船だとすぐたどり着ける岩も、手漕ぎだとなかなか着かない。せっせと漕ぎ続ける内に、岩の上に座る人の長い髪がたなびいているのが判別できた。
……え? 女?
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