至軽風

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 黒柿と水晶の納入に、カリヤス親方は大いに喜んだ。おりしも時計修理の依頼主、シロが訪問中とあって、クロガネ船長ともども盛り上がり、必然宴会の運びとなった。  俺も途中まで参加していたが、酒が苦手であまり呑めず、周りを白けさすのも気が引けて、宴半ばで抜け出し桟橋のはずれまで出て月を見上げていた。 「セイランと言ったか?」  ふいに後ろから声をかけられる。振り向くと黒ずくめの人が腕組みして立っていた。この人がシロだ。スッと隣に立ち、同じように月を見上げる。 「酒席で面白い話を聞かせてもらったぞ。なかなか稀有な体験をしたな」  ああ、船長が話したんだな。 「稀有な体験というか……。なんか、初見の彼女、境遇が俺と被って、似てたんですよね。それで……」 「縁は大事にしたほうがいいぞ。出会いには何か意味があるのだ」 「……はい」    シロは夢見草という花を探して、十年近くかけて(ろく)の国を一回りしてきたのだと聞いた。  結局、見つからなかったという残念な結果だったが、時計の修理にめどが立ちそうだという報告を聞いて、非常に喜んでいた。 「それにしても、きれいな月だな」 「……ですね」  二人で月を見上げていると、足元で水音がした。 「?」  足元を見たら、カプリがふくれっ面で水面から顔を出していた。 「おわっ! なんで?」 「なんで? って……ひどいわ……久しぶりにセイランが港に独りでいるから声かけようと思ったら、女の子連れてるんですもの」 「女の子?」  目を丸くして隣のシロを見る。シロが黒い覆面の顔を指さした。 「あ、ああ、女っちゃぁ、女だな。『子』を付けられるほどかわいくはないかもしれんが」 「えええ?」  立ち居振る舞いや親方たちとのやり取り見てたら、男だと思ってた。多分、誰もシロが女だと認識してない、と思う。
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