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「でも、まぁ、とりあえず、ここは港。あんたらの海域じゃないんだから、ここでは、やたらと沈めようとすんのはやめてほしい」
「はあぁぁー……そうよね。これじゃ、八つ当たりよね。正直、また船見つけて歌っても逃げられたらと思うと、自分ちのまわりじゃやる気でないし、じゃぁ、どうしたら沈められるようになるのかも分からないし……もう、ダメだ」
こいつ、俺より凹んでるかもしれん。にしてもだ、音痴の歌姫ってどんだけ矛盾した存在なんだろう。
「……試しに歌ってみろや。聞いても死にたくならない歌姫の歌って、どんなもんか聞いてやるよ」
カプリは、キッと顔を上げて睨みつけた。
「言ったな! その言葉、後悔するなよ!」
立ち上がって、すうっと息を吸い込む……そして、その喉から……
「 ーーーーーーーーーー !!!」
歌……というよりも、怪音に近かった。濁音のついたホイッスルボイス? 鶏を〆た時の絶叫もかくや。今まで聞いたことのない不快なメロディーに思わず両耳をふさぐ。
「わーかったわかった! ごめん! すまん! 悪かった!」
歌がやんだ。よっぽど気合を入れたのか、カプリは肩で息をしている。
「……すげーな、マジで。どうやったら一人であんな不協和音みたいの出せるの? 別な意味で死にたくなったかも……」
言いながら見上げると、カプリの両目から涙があふれているのに気づいて、慌てて口を押えた。やべぇ、言い過ぎた。
「……ひどい…………ぐすっ」
「あ、……いや、ホントにごめんなさい! 言い過ぎたっ!」
「うわあぁぁぁぁーん!」
泣き声も大音量だったが、さっきの怪音よりは幾分かマシだ。
それにしても……あああ……どうしよう。
女の子を泣かせてしまった。
なすすべもなく狼狽える。
こういう時、どうしたらいいんだ。
ああ……えっと、そうだ、なんか……なんかあったはず。
腰につけた袋を探ると、仕事の合間に口にする砂糖玉の入った小袋が触れた。
「ええと、ごめん。これ食べて元気出して……って、ニンゲンの食い物、大丈夫なのかな」
「……なぁに? それ」
しゃくりあげながらカプリが顔を上げた。
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