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「砂糖玉だ。甘いやつ。凹んでるとき食べると、ちょっと元気になるぞ」
水掻きのついた手のひらに、コロリと赤い砂糖玉を転がす。イチゴ味の砂糖玉だった。指先でつまんで、ちょっとなめている。
「ん! 甘い!」
目がキラリと光った。そういう反応は、ニンゲンの女の子と一緒なんだな。砂糖玉を口の中で転がして目を細める。
……とにかく、泣き止んでくれてよかった。
自分には、黄色い砂糖玉をつまんで口に放り込んだ。疲れてるときによく口に入れるレモン味の砂糖玉だった。
しばらく、ふたり黙って岩の上に腰かけて、口の中で砂糖玉を転がしていた。月がゆっくりと中天に差し掛かる。
「なんも解決してないけど、なんだかちょっと楽になった気がする。砂糖玉、おいしかった! ありがとう」
カプリは、すっきりした顔をしていた。
「セイラン、また凹んだらここに来る?」
「凹んでなくても、来てもいいぞ」
「ははっ。そのうちまた、会えるといいね」
音痴の歌姫は、立ち上がると、水音小さく海面に吸い込まれるように飛び込んだ。やがて、予想していたよりずっと先の海面からひょっこり顔を出すと、ひらりと片手を振って再び海中へ消えた。
彼女のいた岩の上は、濡れて月影に光っていたが、なんだか夢を見ていたようで、そのままぼんやりと月を見上げた。
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