軽風

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 クロガネ船長にくっついて得意先周りをするのは、正直言って大変楽しい。船長の船は、多くは(あけ)の国との商材のやり取りをしている。ここ(おう)の国からは、細工物や家具、金属加工製品などを運び、(あけ)の国からは天蚕の反物や貴石、工芸用材木などを運ぶ。  今日は上得意先のカリヤスの工房に出掛けた。  カリヤスの工房は、(おう)の国では一、二を争う大きな工房だ。技術力が高く、複雑な意匠やカラクリ細工を得意とする。親方のカリヤスは、黄の民らしい小柄でがっちりした体格で、頑固で気難しい性格。どちらかというと寡黙な人だが、仕事の話となると目の色が変わって饒舌になる。日常会話や世間話は、まったくと言っていいほど会話が弾まないが、細工物の話をすると深い話が色々と聞けるので面白い。俺は大好きな人だ。 「先日卸した材はどうだったか?」  船長もそれがわかっているので、時候の挨拶なしでいきなり仕事の話に入る。工房の奥で、かがみこんで何かを削っていたカリヤスは、伸びあがって腰をさすってから振り向いた。 「おう。クロガネか。……やはり、あれはクジラの髭で正解だったようだ。うまく動いたぞ。無事納品できた。感謝する」 「そうか、それはよかった。ところで、頼まれていた黒柿だが、なかなか出物はないようだ。紫檀なら、手に入りそうなんだが、ダメか?」 「うーん。紫檀か……。試しに物を削ってみたが、紫檀や黒檀じゃなさそうなんだが」  カリヤスは腕を組んで唸った。 「ったく、シロ殿もとんでもないものを依頼してきたものだ」 「シロ殿の依頼って、あの時計ですか?」  思わず口をはさむ。カリヤスはうなずいた。
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