厄介なアドバイス

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「ね、ねえ。あなたは何色が好き?」 「そうだねぇ。その目の前にある真っ黒なそれよりは、もっと明るい色がいいんじゃないの?」 彼女の視線の先には、真っ黒な中にラメがいくつか光っているネイルが並んでいた。ビジュアル系のミュージシャンがつけていそうな色だ。 「ベースとか始めるんなら別だけど」 「え? ベース?」 「いや、忘れて。君にはもっと似合うものがあるって」 もしも嵌まって毎晩重低音を聞かされてはたまったものじゃない。 忘れてくれたようで彼女の興味は、ショーケースの向こう側へ再び移ってくれた。 「とりあえず、気にしてたのは爪だったよね。爪さえ綺麗になったらもう割と満足するんだっけ?」 「え? そうだなぁ。今はそうかも! それであなたが気に入ってくれれば大満足!」 肩でため息をついて、店内に溢れているネイルから薄いピンク色のものを1つ掴む。 そのままレジに向かい、イヤホンを取って店員に「プレゼント用で」と短く告げた。 またしても彼女は目をまん丸くしてこちらを見ている。 その様子を返すように俺も黙って眺めた。 「彼女さん用ですか?」 またしても店員に勘繰られるが仕方ない。周囲を見回しても男性は俺しかいなかった。 「はあ、まあそうですね」 「素敵ですね。彼女さんが羨ましいです」 にっこりと笑顔を浮かべて店員さんは丁寧に包まれたネイルを俺に手渡した。
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