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世界一の恋愛
ユウちゃんと付き合うようになって、土曜日の夜は出かけなくなった。
「今週はどうだった?」
俺たちは少し特殊な遠距離恋愛をしている。擬似恋愛?違う、正真正銘の恋愛。強調したい、あくまで現実の恋愛だと。
寝起きの彼女は市場で買ってきた新鮮なフルーツと、日本には売っていない固そうなパンを齧りながら首を傾げた。
「どうもこうも、ドイツ人と仕事をするのはもう飽きたかな」
幼馴染の彼女が海外赴任をしたのは3年前。俺と付き合うようになったのは1年前。ちなみに付き合ってからは一度も会っていない。
「そろそろ帰国の辞令とか出ないのかな。俺、めちゃくちゃ会いたいんだけど」
こうして画面越しで話せる時代には感謝していても、次いつ実物のユウちゃんに会えるのか分からない遠距離恋愛は、思っていた以上に根気が要った。
「どうかな、貿易会社だから、いきなり異動が決まるし、かと思えばいきなり消滅するし、あまり過度な期待はしちゃいけないものなの」
その話は何回も聞いた。期待は残酷だ。持つと重いのに、手放すと苦しい。
海外に出たいと言ったのは彼女だし、従順に社命に従って生きる道を正しく辿るということは、良くも悪くも彼女は会社のエースということ。
「ねえ、ユウちゃん。脱いでよ、裸見たい」
「はい?いやです。切るよ?」
「冗談です」
こんなただの冗談が、本当にただの冗談で終わってしまうのが遠距離恋愛。自分が時々悲しくなる。
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