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「ユウちゃーん!ユウちゃん!」
この瞬間の自分は後にも先にも思い出したくないけど、事あるごとにユウちゃんはこの時の話を持ち出して「泣き虫慎太郎」とぶり返してくる。
ドラマチックと言えばドラマチック。俺の中では。
「なにもう、やめてよ、恥ずかしい」
1年振りに会う“生"の彼女の第一声はそれだった。
国際線の到着ゲートで俺は、憧れのハリウッドスターを出迎えるように、年甲斐もなくブンブン手を振って、サングラスを外す彼女の名前を呼んだ。
「おかえり、ほんとまじでおかえり」
彼女のスーツケースをその場で粉々にしないように、とにかく邪魔で仕方ないそれをとっとと自分の後ろに回した。
「痛いって、もう」
でも知ってる。彼女は俺の肩越しでとてつもなく笑顔だったし、泣いて喜んでいる俺に少なからず安心してくれたのを。
「慎太郎、可愛いね」
そんな風に少し呆れていたかもしれないが、長い長い長い長い長いフライトを越えて帰ってきた彼女はすこぶる穏やかな口調で言ってくれた。
「お前が1番可愛いんだって」
今が最高地点だと心底思った。愛する人にまた会える悲願が叶うこの感覚はロミオとジュリエットの時代からずっと続いている。
「俺、眠れなかった、昨日」
「私も、飛行機でいっぱいお酒飲んだけど、無理だった」
ざわざわと自分の側を通り過ぎる人たちの気配だけ感じた。
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