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プロローグ
水晶玉をのぞくと、うずまくモヤが一気に晴れて、男女の姿を映しだした。
男の方が英語の佐々木先生で、女の方が大塚さんだ。
大塚さんは頬を上気させ、うるんだ瞳で佐々木先生を見上げてる。先生の手は、大塚さんの肩に置かれていて、二人はまるで、今からキスをするかのように見えた。
ああ、とぼくは思う。
最悪だ。
「どうかな?」
水晶玉から顔を上げると、心配そうにぼくをうかがう現在の大塚さんがいる。重ねた手をもてあそびながら、もじもじとぼくの答えを待っている。
舌打ちしたくなる。自分の能力を呪ったのは、これが何度目かわからない。とにかく、すごい数だろうけど、今日の絶望は間違いなく、過去一番のものだと言えた。
大塚さんの質問はこうだった。
「好きな人と、うまくいきますか」
うん、うまくいくよ。だって、水晶の中の君は、君の好きな人と今にもキスしそうだ。
“占った”結果を、ぼくはありのまま、“お客さん”に伝えなきゃならない。それが、ルール。
さぁ、言うんだ。結果を、彼女に。
だけど、このときのぼくはショックでどうかしていて、つい、占いの結果をねじまげて彼女に伝えてしまったんだ。
「ぜんぜん、まったく、うまくいかない。その人を好きでいることは、いますぐやめたほうがいいね。残念だけど」
青くなってかたまる大塚さんを見て、ぼくの胸はすっとした。
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