10人が本棚に入れています
本棚に追加
けれど、そんなある朝のこと。
——おはようございます。お父さま。
カーテンを開け、
いつものあいさつをしたわたしに、
お父さまは返事をしなかった。
ゆっくりと目を開いたきり、
じっとわたしの方を見つめて黙りこんでいるお父さま。
不思議に思ったわたしがそっと、
顔を近づけてよく見てみると、
わずかに開いた口の中から、くぐもった声がやっと聞こえた。
「おはよう……マリア。いい朝だ……ね……」
それが変調の始まりだった。
お父さまは徐々に顔を歪め、
いつもの「笑顔」をつくりかけたが、
途中でエネルギー切れを起こし、ぴたりと止まって固まった。
顔の筋肉を支える力が抜けきるまではさらに早く、
目玉はぐるりと逆さまに、
あごはだらんと垂れ下がり、
その口からは生き物のように太くて長い舌がこぼれた。
ぜんまいの切れたおもちゃのように、
溶け出すように崩れてしまったその表情を目の当たりにし、
わたしはぼう然と立ち尽くした。
「お父さま……」
絶句する。
だが、このような事態はなにも、
今回が初めてではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!