12120日目

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けれど、そんなある朝のこと。 ——おはようございます。お父さま。 カーテンを開け、 いつものあいさつをしたわたしに、 お父さまは返事をしなかった。 ゆっくりと目を開いたきり、 じっとわたしの方を見つめて黙りこんでいるお父さま。 不思議に思ったわたしがそっと、 顔を近づけてよく見てみると、 わずかに開いた口の中から、くぐもった声がやっと聞こえた。 「おはよう……マリア。いい朝だ……ね……」 それが変調の始まりだった。 お父さまは徐々に顔を(ゆが)め、 いつもの「笑顔」をつくりかけたが、 途中でエネルギー切れを起こし、ぴたりと止まって固まった。 顔の筋肉を支える力が抜けきるまではさらに早く、 目玉はぐるりと逆さまに、 あごはだらんと垂れ下がり、 その口からは生き物のように太くて長い舌がこぼれた。 ぜんまいの切れたおもちゃのように、 溶け出すように崩れてしまったその表情を目の当たりにし、 わたしはぼう然と立ち尽くした。 「お父さま……」 絶句する。 だが、このような事態はなにも、 今回がではなかった。
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