第8章 雨降って地固まる

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 後から聞いた話では、蒼ちゃんの不機嫌の原因は母さんと秋月先輩のお父さんの再婚により、田中さんのお休みが激減している事だったらしい。 今までは毎週土曜日、学校帰りにそのまま田中さんのマンションへ行っていたらしいのだが、顔合わせやらなんやらが日曜日になった為、田中さんが蒼ちゃんにマンションへ来るのを止めていたんだそうだ。 「別に…ずっと一緒に居られなくても良いのに…。お見送り出来るだけでも、幸せなのにな…」 蒼ちゃんは口を尖らせて呟いた。 でも、今回は急に金曜日に泊まりに行く事になったらしい。 「いつも、あおちゃんに僕のご機嫌を取ってもらうのも申し訳ないですし…って」 うふふって笑いながら、蒼ちゃんが話していた。 そして、その話の流れから、どうやら今度の日曜日に母さんと秋月先輩のお父さんは神崎家へご挨拶に行くと知る。 母さん…、本当に大事な事は直前まで言わないからな…。 母さんの実家は、俺を出産する際に縁を切られていると聞いている。 母さんの実家がどういう家なのか?…実は何も知らない。 ただ、桐楠大附に通っていたという事は、お嬢様である事には間違いは無いとは思う。 でも、そんな事が気にならないくらい、神崎の爺ちゃんと婆ちゃんは俺達を慈しんでくれていた。 だから、神崎の家が親父側の親族と理解する年齢になった時、俺や母さんを愛してくれていた事に本当に感謝した。 いつだって、母さんを本当の娘のように迎えてくれていた。 でも、母さんはそれに甘えないようにと、正月とお盆にしか神崎の家へは顔を出さないようにしていた。そんな母さんの気持ちを察して、爺ちゃんと婆ちゃんからも「顔を出しに来い」と言って来た事も無かった。 秋月先輩のお父さんと母さんが結婚するとなると、神崎の祖父母は本当に他人になってしまうんだな…。 ふとそれに気付いて、寂しいけど仕方が無いんだよね…。って自分を納得させた。 顔合わせの後、母さんと秋月先輩のお父さんの再婚話はとんとん拍子に進んでいるらしい。 その際、話題に上がるのが俺の戸籍をどうするのか?だったみたいだ。 秋月家側も、母さんも俺の意思の尊重したいと言ってくれている。 正直、神崎の家の正当後継者は今現在、俺しかいない。秋治伯父さんは未だに独身を貫いているし、今後、結婚する気は無いと言っていた。 多分だけど…、俺を後継者にする為に結婚しないんだと思う。 そしてこれも多分だけど、秋治伯父さんは母さんが好きなんだと思う。 俺達が神崎の家へ行く時、必ず秋治伯父さんも待っていてくれる。 そしてある時、気付いたんだ。 秋治伯父さんの母さんを見つめる瞳は、愛しい人を見つめる瞳だって…。 でも、亡き弟のお嫁さんとして現れた母さんを、秋治伯父さんは諦めざる得ない状況だったんだろうと思う。 俺が父親という存在が居なくても、不便で無かったのは秋治伯父さんのお蔭だった。 幼い頃は、父親参観には秋治伯父さんが来てくれていた。 運動会やイベントの時も、必ず秋治伯父さんが学校に顔を出してくれていた。 でも、心無い噂をされて、伯父さんは学校や自宅に顔を出す事をしなくなってしまう。 それでも、神崎の家へ行くと必ず笑顔で迎え入れてくれていた。 多分…本当に多分だけど、母さんも本当は秋治伯父さんを好きだったと思う。 幼い頃は、本当の家族のように過ごしていた。 ただ違うのは、夜になると秋治伯父さんは神崎の家へと帰る事。 何度か駄々をこねて、俺が寝付くまで居てくれた事もあった。 でも、伯父さんは決してうちに泊まる事はしなかった。例えどんなに遅くなっても…。 幼い頃、俺をお風呂に入れるのは伯父さんの担当だった。思い返せば…小学校4年生になった時、夜中に母さんがひっそりと泣いていた事があった。あの時、何かがあったんだと思う。 それ以降、秋治伯父さんが家へ来る頻度が減り、いつしかパッタリ来なくなってしまう…。 その母さんが再婚すると聞いて、秋治伯父さんはどんな気持ちなんだろう?  翌週の日曜日、やっぱり前日に母さんから神崎の家へ行く事を伝えられた。 先輩とあの日以来、毎日電話で話をしていたけど、この日はさすがに先輩は遠慮すると言って神崎の家へは俺と母さんと、秋月先輩のお父さんでご挨拶へ向かう事になった。
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