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そんな事を考えながら蒼ちゃんを黙って見つめていると
「章三は…勘違いしてるんだと思うんだ」
蒼ちゃんがぽつりと話し出す。
「あいつのあおちゃんへの感情は、恋愛じゃないと思う。」
ゆっくりと俺を見つめて、言葉を選ぶように蒼ちゃんが話を続ける。
「確かにあいつはあおちゃんが大好きだよ。それは僕も認める。でも、それは僕があおちゃんを大好きな気持ちと一緒だと思ってるんだ。だから、あいつの気持ちは恋愛感情とは違うと思うんだ。分かるかな?」
確認するように、蒼ちゃんが俺を真っ直ぐに見て聞いて来た。
俺は蒼ちゃんの言葉の意味をすぐに理解した。
俺も、蒼ちゃんや章三が大好きだ。
もし、2人が引越しするってなったら寂しいし、章三にもし俺以上に仲の良い奴が現れたら面白くは無いと思う。でも、それは恋愛感情では無くて、友達を取られた寂しさだと思う。
もし章三が本当に俺に対して恋愛感情があったとしたら、長年一緒に寝泊まりしているのに安全な訳が無い。今回、キスされそうになったものの、本意では無いと思うんだ。
あいつが本気で俺にキスしようとしていたら、俺が突き飛ばした程度で逃げられないと思う。
それに…あいつが俺に対して、俺が秋月先輩を想うような感情があったとは思えない。
俺は、蒼ちゃんの家に泊まる秋月先輩を見る度に苦しかった。
いつだって、届かない想いに身を焦がすようだった。大好きな筈の蒼ちゃんの事を、何度、憎いとさえ思ったか分からない。
2人が並んで歩く姿を見る度、先輩はどんな風に蒼ちゃんに愛を囁くのだろうか?
あの逞しい腕に、蒼ちゃんは何度#抱かれたのだろうか?
そう考えるだけで、どす黒い感情に身動きが出来なくなる。
何度、秋月先輩の視線が俺だけを見てくれれば良いと願っただろう。
あの声で、唇で、腕で…全てで俺に触れて欲しいと願ってしまう。
そう、たとえそれが一夜の夢でも良いからと…。
でも、それは叶わぬ夢だと分かっている。
相手が今、目の前に居る蒼ちゃんなんだから適う訳が無い。
それに…、蒼ちゃんが先輩と清い関係では無いのも知っている。
先輩の家に泊まった翌日は、蒼ちゃんのフェロモンが倍増される。
しかも、何度か偶然目にした蒼ちゃんの鎖骨に刻まれたキスマーク。
消える頃には必ず刻まれている。
そう、所有者の存在を誇示するかのように…。
普段はネクタイをしているから見えないけど、俺は偶然自宅に居る蒼ちゃんの私服から、何度か目にしてしまった。
その度、胸がぎゅっと苦しくなって、泣きそうになった。
章三が、そんな気持ちを味わっているようには考え難かった。
ぼんやりと考えていると、蒼ちゃんがジッと俺を見つめていた。
そして
「前から聞こうと思ってたんだけど…、あおちゃん好きな人出来た?」
と、突然聞かれて思わず動揺してしまう。
「えっ!!嫌、あの…居ないよ!」
慌てて否定すると、蒼ちゃんの目が座る。
「どうして隠すの?好きな人、居るんでしょう?」
にじり寄る蒼ちゃんから視線を逃がすと、蒼ちゃんが大きな溜め息を吐いた。
「しかもその相手、翔なんでしょう?」
確信を突かれて、思わず蒼ちゃんの顔を見た。
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