第5章 人生山あり谷あり

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そんな俺の顔を見て、蒼ちゃんが口をへの字にすると 「あおちゃん、露骨に喜び過ぎ」 って、俺の頬をムニッとつまんだ。 「ごめん…。だって…もう、蒼ちゃんに嫌な気持ちにならなくて済むと思ったらホッとして…」 苦笑いして答えた俺に、蒼ちゃんが目を座らせて 「えっ!あおちゃん。僕にどんな感情を持ってたの?ちょっと聞かせて!」 と言い出した。 「えっ!!嫌、あの…ごめんなさい。嫉妬してました。」 しゅんとして答えた俺に、蒼ちゃんは「はぁ~」って大袈裟に溜息を着くと 「あおちゃんが、いつか僕より大切な人が出来るだろうとは思ってたけど、相手が翔っていうのが腹が立つ!」 と、苦々しい顔をして呟いた。 「え!」 驚いて蒼ちゃんの顔を見ると、田中さんがクスクスと笑いながら 「蒼介さん、葵様が気にしてしまっていますよ。」 そう言いながら、蒼ちゃんの髪の毛に優しく触れる。すると蒼ちゃんは口を尖らせて 「だって!あいつ、田中さんと言い、あおちゃんと言い…。労せず簡単に手に入れてるから腹が立つ!」 と言いながらプンプンしている。 本気で言っているらしい言葉に、俺が苦笑いしていると 「蒼介さん…何度も言っていますが、私が今一番大切な人は貴方だけですよ」 頭を撫でていた手が、するりと蒼ちゃんの頬へと移動する。 「田中さん…」 触れられた田中さんの手に、自分の手を当ててうっとりと田中さんを見上げる蒼ちゃんの目は、紛れも無く恋する瞳をしている。 そう、見つめ合う瞳は熱を帯びて、お互いしか映していないかのように…。 俺、この場に居るのがいたたまれなくなって、どうしたもんかと困っていると 「あのな…、イチャつくのは田中の家の中だけにしろと何度も言ってるよな…」 走って来たらしく、秋月先輩が息を切らしながら俺の背後に立っていた。 「先輩!」 驚いて振り向くと 「神崎君の目の毒だよ!お前ら、普通にしててもエロモン撒き散らしてんだから。」 そう言って、俺の肩を掴んで先輩の方へと引き寄せた。背中に先輩の体温を感じてドキドキする。 「ちょっ!翔、エロモンって何だよ!」 「見たままだろうが!所構わず振り撒くな!迷惑だ!」 蒼ちゃんと先輩が言い争いを始める。 俺が困って田中さんを見ると、田中さんは余裕の笑みで見守っている。 「大体、何どさくさに紛れてあおちゃんの肩を抱いてるんだよ!気安く触るな!」 蒼ちゃんはそう言いながら俺の腕を掴んで抱き寄せると、先輩を「しっ!しっ!」と手で払っている。 「俺は野良犬か!」 「野良犬の方が可愛い分マシだよ!」 「何だと!」 ギャンギャンと言い争う2人に、俺は苦笑するしか無い。 (いつもこうなのかな?) 困惑して再び田中さんを見ると、俺の視線に気付いたみたいで 「はい、そこまで!葵様が困っています!」 そうピシャリと言い放つ。 「全く…。どうしてあなた方は寄ると触るとそうなんですか…」 呆れた口調で田中さんが呟くと、2人は声を揃えて 「蒼介が悪い!」 「翔が悪い!」 と叫んだのだ。 そんな2人を見て、俺と田中さんは顔を見合わせて吹き出す。 2人は何故、俺達が笑いだしたのかが分からないらしく、困惑の表情を浮かべている。 「貴方達は…仲が良いのか悪いのか…」 田中さんがボヤくように呟くから 「でも、蒼ちゃんが気兼ね無く言いたいことを言えるのは、秋月先輩だからなんですよね!」 と、俺は呟いた。 すると蒼ちゃんは嫌そうな顔をして 「なんかあおちゃんの言葉だけを聞くと、翔が凄く良い奴っぽく聞こえるんだけど…」 って言いながら口をへの字にする。 「あ!そうじゃなくて、それだけお互いに信頼し合ってるんだなぁ~って。ほら、蒼ちゃんは基本的に人見知りでしょう?それに、本音も俺達にさえ言わないじゃない?だから、こんなに親しい人が出来て良かったなぁ~って…」 笑顔で答えた俺に、蒼ちゃんは目を座らせたまま 「真実を知った途端、これだもんなぁ~」 やれやれ…と言いながらため息混じりでつぶやいた。俺は蒼ちゃんの言葉に真っ赤になる。 「え!嫌、そんなんじゃないよ!」 慌てて反論すると、蒼ちゃんはふわりと微笑んで 「あ~ちゃんが辛い顔をしているより、全然良いけどね」 って言って俺の頭を撫でた。 「蒼ちゃん…」 俺は本当の兄弟以上の愛情を、蒼ちゃんから貰っていると思う。いつかこの愛情を、蒼ちゃんに返せる時が来るのだろうか?と、ぼんやりと考えていた。
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