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エレベーターに乗り自宅のマンションのドアを開けると、リビングには既に夕飯が並んでいた。
母さんが嬉々として、写メを撮りまくっている姿が飛び込んで来た。
「ただいま」
って母さんに声を掛けると
「あおちゃん、おかえりなさい」
と、満面の笑みで抱き着かれる。
「母さん、何してんの?」
携帯を片手に抱き着いてきた母さんに聞くと
「え?今日の夕飯、最高に美味しそうに出来たからメールしてたの」
って答えてうふふって笑ってる。
俺は部屋へ向かいながら、秋月先輩のお父さんにでも送ってるんだと思っていたのだが
「翔君も、肉じゃが好きなんですって~」
の母さんの声に、部屋のドアノブに掛けた手が止まる。
「え?」
驚いて母さんを見ると
「翔君もこれから、田中さんとご飯みたいよ」
と、あっけらかんと答えた。
事態が飲み込めずに母さんを見ていると
「あれ?言わなかったっけ?母さん、昨日の食事会で翔君とメアド交換したの~」
そう言ってブイサインしている。
(な…なんですとぉぉぉ~!!)
驚いて口をパクパクしてると、
「あ!あおちゃんの連絡先も教えてあるからね」
と、母さんが「褒めて褒めて~」と得意気に言って来た。
「え!俺の連絡先も?」
「そうよ。何かあったら、じゃんじゃん連絡してね~って言っといたから」
楽しそうに言う母さんに
「な…なんでそんな勝手な事!」
って慌てて叫ぶ。
すると母さんは小さく微笑み
「だって、あおちゃんのお兄ちゃんになる人でしょう?」
と言うと
「幸助さんや田中さんから聞いたんだけどね…。翔君、自宅に1人で居ることが多いらしいの。普段からあまり口数が多くは無いから、あおちゃんとの関係を物凄く心配してるって聞いたの」
母さんは俺を見つめて話し出した。
「私はね、あおちゃんなら心配は無いと思ってるの。だって、あおちゃんにはいつだって蒼ちゃんや章ちゃん達が兄弟のように傍に居てくれたんだもの。だから一番心配なのは翔君なの」
少し悲しそうに微笑むと
「きっとあの子、私達と暮らし始めたら良い子で居なきゃって無理してしまうわ。新しく家族になるんだから、時には衝突したって良いと思うの。だって、家族なんだもの。だからね、あおちゃんが翔君をお兄ちゃんにしてあげて」
そう続けた。
「あおちゃんは、一人っ子だけど一人っ子じゃない。それは、蒼ちゃんって絶対的に信頼出来るお兄ちゃん的存在が傍に居てくれたから。でもね、あの蒼ちゃんだって最初からお兄ちゃんだった訳じゃないの。あおちゃんや章ちゃんが、蒼ちゃんをお兄ちゃんにしたの。」
「俺や章三が?」
「そうよ。人は、最初から役割分担が決まってなんか居ないわ。環境が人を育てるの」
「環境が…人を育てる?」
母さんの言葉を復唱する俺に小さく頷くと
「そう。でも、翔君は最初から良い兄貴、良い子供を演じようとしてしまうと思うの。だから、あおちゃんが教えてあげて。翔君が翔君らしく、私達と家族になる為の方法を…」
って呟いた。
母さんの言葉は難しくて、100%理解する事は出来なかった。
でも、言いたいことは伝わっていた。
あの蒼ちゃんだって、今の蒼ちゃんになるまでには色々な思いをして来たんだろう。
だからこそ、今の蒼ちゃんが居るんだよね。
「俺、良い弟になれるかな?」
ぽつりと呟くと、母さんは微笑んで
「馬鹿ね、良い弟になる必要は無いのよ。あおちゃんは、あおちゃんのままで良いの。翔君と2人で、あおちゃんと翔君だから築き上げられる関係を作って欲しいって思ってるの」
そう言った。俺が母さんに微笑み返して
「分かった」
と頷くと、母さんも頷いて
「積もる話は又、食事しながらね。早く手を洗って着替えて来て頂戴」
そう続けた。
俺が部屋のドアを開けて中に入ろうとすると
「あおちゃん!翔君とだけど…、別に兄弟に固執しなくても良いからね。2人が納得出来る関係を作ってくれれば、母さんは満足だからね」
そう付け加えたのだ。
俺は母さんの言葉の意味が分からず
「?うん、分かった」
と曖昧に頷くと、母さんは優しく微笑み
「呼び止めてごめんね。」
そう言って、夕飯の支度へと踵を返してキッチンへと向かった。
俺は母さんの最後の一言に首を捻りながら、鼻歌を歌いながら夕飯の支度をする後ろ姿を横目に自分の部屋へと入って行った。
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