第1話 青天の霹靂

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第1話 青天の霹靂

「あおちゃん。お母さん、再婚しようと思うの」 それは本当に突然の事で、脳内では授業でしか使われないであろう『青天の霹靂』などという言葉が浮かんでしまった。  俺、神崎葵(15歳) お嬢様、お坊っちゃま学校で有名な、桐楠学院大学附属高等学校の1年生だ。 家族構成は、35歳になる母親と俺の2人家族。 そう、いわゆる母子家庭ってヤツだ。 あ!母子家庭とはいえ、ドラマや小説に出て来るような不幸な生い立ちで母子家庭な訳ではなく、俺の父親は産まれながらに身体が弱かったらしくてね、医者からは20歳迄は生きられないと言われていたらしい。 そんな親父と母さんは、高校2年の夏に「運命の出会い」ってヤツをしたんだとか。 母さんは18歳で妊娠、19歳で出産した。 お嬢様学校に通っていた母さんの妊娠は、そりゃ~もう大騒ぎになったんだそうだ。 妊娠した当初、二十歳まで生きられないと言われている親父との結婚は大反対されたらしい。 それでも頑なに俺を出産すると言って聞かない母さんに、親父側の親族が折れて援助を申し出たんだとか。 母さんは『二十歳までしか生きられないからこそ、神崎君が生きていた証を残したかったの』と、ことある事に話していた。 親父は大きな会社を幾つも経営する、神崎グループの御曹司だった。 最初は財産目当てと疑っていた親父側の家族も、最終的には意思が固い親父と母さんの気持ちを尊重したらしい。 ただし、結婚は認めても遺産は渡さない事を条件に二人は結婚した。 とはいえ、入退院を繰り返していた身体の弱い親父と結婚式を挙げる事は出来ず、入籍をしただけだったと母さんは言っていた。 買い物に行く度、ショーウィンドウに飾られているウエディングドレスを見ると、いつも羨ましそうに見つめている母さんの顔を思い出す。その横顔は悲しげで、子供ながらに母さんを俺が幸せにしなくちゃって思って見ていた。 そんな母さんは、いつだって「神崎君(母さんは、未だ親父を苗字で呼ぶ)以上に素敵な人は居ない」と豪語していたので、まさか再婚するとは思ってもみなかった。 あまりにも突然の事で、俺は一瞬言葉を失う。 そう、最高に良く出来た鳥の唐揚げの味がわからなくなる位には、衝撃を受けた。 固まっている俺に、母さんは反対の意図を感じたのだろう。 悲しそうに顔を歪めて 「やっぱり……反対だよね」 と呟くと、しょんぼりした顔をして箸を進める。 その様子があまりにも悲しそうで、俺は必死に笑顔を作って 「嫌、反対も何も……びっくりしただけだよ。母さん、突然過ぎるよ」 そう答えた。 幼い頃から女手ひとつで俺を育ててくれた母さんの、幸せを願わない訳が無い。 ただ、ずっと俺が守り続けて行くつもりだったから、寂しく無いと言えば嘘になる。 でも、母さんの年齢はまだ35歳。 折角、再婚したい相手が現れたのなら、闇雲に反対だけはしたくないとは思っている。 ぼんやりと考えていると 「実はね、今度の日曜日。彼と彼の息子さんとあおちゃんと私の4人で、お食事会をしようって話が出ているの。あおちゃんは来られる?」 と母さんが聞いて来て、俺は再び固まった。 「今度の日曜日って、4日後じゃないか!」 思わず叫んだ俺に、母さんがしゅんっと落ち込んだ顔をする。 ずるいよ……。 そんな顔されたら、怒れないじゃないか……。 俺は溜息を吐いて 「分かったよ。その時に、その男が母さんに相応しい相手かどうかを見てやるよ!」 ドンっと胸を叩いて、母さんに笑顔を見せた。 この時の俺は、母さんの再婚以上に驚く事はもう無いだろうと思っていた。 そう……本当に驚くのは、この後に待っているという事も知らずに。
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