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「着きましたよ、お嬢さん」
おばあさんに言われ、顔をあげると、目の前にあったのは立派な和風のお屋敷だった。
見事な数寄屋門をくぐると、まず目に入ったのは、どこか懐かしさを感じさせる大きな池だった。その中央にそびえ立つように屋敷があり、大きな池は屋敷を守るように湖面を揺らしている。風がそよぎ、やわらかな光がお屋敷をつつみこんでいる。秘境の地に迷い込んだような感覚なのに、不思議なぬくもりを感じさせる特別な場所。
「すごい……なんてきれいお屋敷なの? こんなの初めて見ました」
風情を感じさせる美しい佇まいのお屋敷に、荷物を運んだ疲れも忘れ、うっとりと見つめてしまった。この辺りにこんな立派なお屋敷があったなんて。高級旅館といってもいいぐらいの壮観さだ。
「喜んでいただけて何よりでございます。さぁ、お嬢さん、そちらに荷物を置いてくださいな」
「はい、わかりました」
おばあさんに指定された土間に、背中の荷物をゆっくり下ろす。
「よいしょっと……」
ごとりという音と共に鎮座した荷物は、あるべき場所に戻りました、というほど屋敷に馴染んでいた。
「重かったでしょう? 申し訳ありませんでした」
おばあさんは申し訳なさそうに、頭を下げる。
「気にしないでください。それより、どこか破損とかしてませんか? 慎重に運んだつもりですけど、ちょっと心配で」
「きっと大丈夫ですよ。でも御心配でしたら、一度確認してみましょうね」
おばあさんが荷物の結び目をしゅるりとほどくのを、固唾をのんで見守る。風呂敷包みの中から現れたのは、焼き物で作られた、大きなたのタヌキの置き物だった。
「た、たぬき……??」
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