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美しく、懐かしい人
銀色の長い髪が、逞しい体に沿って流れている。気品を感じさせる端正な美貌に、澄んだ湖のように清らかな瞳。高貴で雅やかでありながら、どこか懐かしさを感じさせる神秘的な男性。とても人とは思えない存在なのに、不思議と怖くはなかった。
(私、この人と会ったことがある……?)
なぜか唐突にそう感じた。こんなに美しい男性に出会ったら、たぶん忘れることはないというのに。呼吸をするのも忘れ、銀色の髪の男性を見つめ続けてしまった。
男性も同じように思うのか、少し訝しげに私を見ている。
「おまえ……ひょっとして楓か?」
「え? どうして私の名前を……?」
銀色の髪の男性は、私の名を知っていた。ということはやはり、私たちはどこかで会ったことがあるということなのだろうか?
「やはり、楓か。幼き頃の面影があるとは思ったが。これは一体どういうことだ、ばあや。いや、昌よ」
銀色の髪の男性は私の前を素通りして、昌と呼ぶおばあさんの肩を掴む。
「答えよ、昌。なぜ楓がここにいる? おまえが迎えに行ったのか? 返答次第では、いかにおまえであっても許さぬぞ」
強い力で掴まれているのか、おばあさんは小さく呻き、目をつむった。
「止めてあげてください。おばあさん痛がってます!」
咄嗟に止めに入ってしまった。どんな事情があるのかわからないが、目の前で痛がるおばあさんを見過ごすことはできなかった。
男性を止めようと、その手に触れた時だった。
銀色の髪の男性の体が、びくりと揺れた。驚いて顔をあげると、愛おしく、切なげ表情で私を見つめている。その眼に、心と記憶が揺さぶられ、かすかな思い出を蘇えさせる。
「私、あなたを知ってるわ……。私を見つめるその瞳。記憶になくても、体が覚えているもの」
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