376人が本棚に入れています
本棚に追加
澄んだ瞳が私を見つめている。
銀色の髪を持ち、とても人とは思えぬ男性なのに、不思議と怖くはない。
彼のことを思い出そうとすると、ぼんやり何かが浮かぶのに、頭痛がおぼろげな記憶を消してしまう。まるで何かの力で「思い出すな」と命令されているかのようだ。
痛む頭を撫でながら、少しずつ思い出の糸をたぐり寄せていく。
「あなたの名前を知ってる気が、する…………つぅ、頭、痛い……」
「楓、無理するな、思い出さなくていいんだ。今は休め。後で元の世界に返してやるから」
銀色の髪の男性は私の背中を擦り、優しく声をかけてくれる。でも今は、その気遣いが煩わしかった。
お願い、私の記憶を遮らないで。そう言おうとした時だった。
「『信』でございますよ、楓様。信おぼっちゃまです」
「昌! 余計なことを」
おばあさんが、私に教えてくれた。目の前に立っている、懐かしい人の名を。
「信……?」
おばあさんの言葉が、私の頭の中の霧を一気に吹き飛ばしていく。光を浴びるように、幼い少年の姿がはっきり脳裏に浮かんでくる。
私は『信』という名前の存在を知っている。よく一緒に遊んだもの。
「信……そう、信ちゃんだ!」
神社のほとりの湖で出会った美しい少年。儚げな美少女のように繊細で、触れると壊れてしまいそうだった。あの子も銀色の髪をしていた。
どうやら立派な男性に成長したみたいだけど、澄んだ瞳と銀色の髪をもつ存在は、他にはいない。
「思い出した! 泣き虫の信ちゃんよ!」
最初のコメントを投稿しよう!