美しく、懐かしい人

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 澄んだ瞳が私を見つめている。  銀色の髪を持ち、とても人とは思えぬ男性なのに、不思議と怖くはない。  彼のことを思い出そうとすると、ぼんやり何かが浮かぶのに、頭痛がおぼろげな記憶を消してしまう。まるで何かの力で「思い出すな」と命令されているかのようだ。  痛む頭を()でながら、少しずつ思い出の糸をたぐり寄せていく。 「あなたの名前を知ってる気が、する…………つぅ、頭、痛い……」 「楓、無理するな、思い出さなくていいんだ。今は休め。後で元の世界に返してやるから」  銀色の髪の男性は私の背中を(さす)り、優しく声をかけてくれる。でも今は、その気遣いが(わずら)わしかった。  お願い、私の記憶を(さえぎ)らないで。そう言おうとした時だった。 「『(しん)』でございますよ、楓様。信おぼっちゃまです」 「(まさ)! 余計なことを」  おばあさんが、私に教えてくれた。目の前に立っている、懐かしい人の名を。 「信……?」  おばあさんの言葉が、私の頭の中の霧を一気に吹き飛ばしていく。光を浴びるように、幼い少年の姿がはっきり脳裏に浮かんでくる。  私は『信』という名前の存在を知っている。よく一緒に遊んだもの。 「信……そう、(しん)ちゃんだ!」  神社のほとりの湖で出会った美しい少年。(はかな)げな美少女のように繊細で、触れると壊れてしまいそうだった。あの子も銀色の髪をしていた。  どうやら立派な男性に成長したみたいだけど、澄んだ瞳と銀色の髪をもつ存在は、他にはいない。 「思い出した! 泣き虫の信ちゃんよ!」  
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