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信さんがハッとしたように、私の顔を確認する。
「昌、おまえ何を言うのだ。楓がわたしの気持ちを知ってしまったではないか!?」
自分の発した言葉によって、昌さんの話が真実である、と認めてしまったことに彼は気付いてないようだ。
ややあって、ようやく事態に気付いた信さんは慌てて両手を振り回す。
「楓、今のはナシだ。 聞かなかったことにしてくれっ!」
手を振ったところでどうにもならないのに、必死で話をごまかそうとする。その顔はみるみる赤くなっていき、もはや自分でもどうしていいのかわからない、といった様子だ。
信さんの子供じみた行動を見ていたら、私はもう、笑い出すのを止められなかった。
「やだ、もう、信さんってば。うふふ、あはははっ」
お屋敷の客人という立場も忘れ、思いっきり笑ってしまった。思えば、心の底から笑うのはいつ以来だろう。自分がこんなに笑えるなんて、しばらく忘れていた。
「か、楓……」
銀色の長い髪を不安げに揺らしながら、しょんぼりした顔で私を見ている信さんの姿がたまらなく可愛い。笑い声はしばらく治まることはなかった。
「ご、ごめんなさいね。信さんがあんまりかわい……ううん、必死だったから、つい面白くて」
「だからといって、本人の前で笑うのは失礼だろう?」
両手を組み、気取った様子でそっぽを向く。その姿にまた笑い出しそうになるのを必死に堪えながら、彼に素直に謝罪した。
「その通りよね、ごめんなさい、信さん。もう笑いません」
「わかればよろしい」
思い切り笑ったことで、自分の中にあったわだかまりが解けていった気がする。今なら彼も、全て話してくれるように思えた。
軽く深呼吸して気持ちを落ち着けると、信さんに顔を向ける。
「信さん、そろそろ全てを話してくれますか? 真実が知りたいの」
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