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村の長が数人の男たちを従え、ハナさん親子が暮らす住まいへやってきた。
ハナさんは始め笑顔で出迎えたが、長たちが険しい顔をしていることにすぐ気付いたようで、不安そうな顔をしている。
『お久しぶりです、村長様』
『ハナ、なぜおまえは、ここにおるのだ?』
ろくに挨拶もせず、険しい顔でハナさんを問いただす村長だった。
『なぜと申されましても……。ここで夫である水神様の帰りを待っているのです』
『偽りを言うでない!』
突如声を荒げる村長に、ハナさんの華奢な体がびくりと震えた。脇で遊んでいた幼い信さんも驚いて、母であるハナさんにしがみつく。
『湖に身を捧げた後、不覚にも水面にあがってきてしまうこともあろうな。それは仕方ない。しかし、その時は村に帰ってきて、村のものに子細を話して詫びるべきだろう。ハナ、責務から逃れるつもりだったか?』
どうやら村長は、ハナさんがその身を湖に捧げた後、勝手に逃げ出したと思っているようだ。
『村長様、それは違います。私は湖に沈んだ後、水神様に助けていただきました。そして、あの方に花嫁として迎えていただきました。逃げてなどおりませぬ』
『ならば傍らにいる子は、誰の子だと言うのだ? おまえによく似た顔立ちで、髪も目も黒く、なんら人の子とかわらぬ。神の子であるはずがない』
『信は私に似たのです。この子は水神様の子です』
ハナさんは嘘なんてひとつも言ってない。
それなのに、村長たちはハナさんの言葉を全く信じようとしない。
どうしてなの?
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