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私の幸せ
幼い私は、両親と手を繋ぎ、ご機嫌で歩いている。
ふっと父と母の手が離れた。
「お父さん、お母さん、まって」
「楓、こっちだよ」
「転ばないように気をつけて」
父と母は私を置いて、先へ進む。私も懸命に後を追うが、どれだけ走っても追いつけない。
「まってぇ、楓をおいていかないで!」
ほろりと涙が、頬を流れ落ちていった時だった。
「朝だよぅ、あざだよぅ! おぎで~!!」
ニワトリの姿をした目覚まし時計が、今朝も元気に鳴り響く。私を叩き起こし続けて十数年。当時は最新式だったニワトリ型目覚まし時計も、すでにアンティークの部類だろう。若干発音がおかしくなってはいるが、まだまだ現役。ずっと使い続けるつもりだ。だって、お父さんに買ってもらった目覚まし時計だから。
「久しぶりに、見ちゃったなぁ。お父さんとお母さんの夢」
私の幸福は、大好きなお父さんとお母さんが私を愛してくれたこと。
両親が娘を愛するなんて、普通のことかもしれない。でもそんな「ごく普通のこと」も、突然消えてなくなることもある。
私の一番の不幸は、大好きだったお父さんとお母さんが事故で死んでしまったこと。私をおいて逝ってしまった。もっとずっと一緒にいたかったのに。どれだけ声を枯らして泣いても、二人は帰ってこない──。
お父さんとお母さんが自動車事故で亡くなったのは、私が8歳の時だった。二人で買い物に出ていて、他の車の事故に巻き込まれたのだ。
誕生日プレゼントにニワトリ型の目覚まし時計をプレゼントしてくれて、これからは自分で起きれるようにがんばろうね、といわれた直後のことだった。
あまりに突然の別れ。辛い現実を受け止める余裕もないまま、生活は一変した。
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