懐かしい場所へ

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懐かしい場所へ

 木々の間を走り抜けると、そこはもう別世界だった。射し込んだ光が、温かく私を迎えてくれる――。 「わぁ。懐かしい……」  大好きだった両親を失い、新しい場所でも馴染めず、泣いてばかりだった幼い私を受け入れてくれた場所。懐かしい『水ノ森(みずのもり)神社』。  神社には寄り添うように小さな湖があり、そこに水神の化身が棲んでいるという。この地域では昔から湖の水神が人々を守ってくれると信じられていた。信仰と祈りの場所でもあるのだ。  けれど今、人々はこの神社と湖に来ることはほとんどなくなってしまった。近づくものは祟られると言われているからだ。時を経て、神聖な場所は(たた)りを呼ぶ場所へと変化していったらしい。  そんな事情があることなど知らなかった幼い私には、ここはひとりになるのにちょうどいい場所だった。 「ここでよく泣いたっけ……」  大声で泣くと誰かに気づかれてしまうから、膝を抱え、顔を押し付けるようにして泣いていたことを覚えている。  当時の伯父さんたちも私にどう接していいのかわからなかったようで、食事の時以外はそっとしておいてくれた。    それはありがたかったけど、反面寂しくもあり、荒ぶる感情にどう向き合えばいいのかわからなかった。だから、ひとりで泣いた。 ひとしきり泣くと、湖をそっと覗き込む。 「そうそう、この湖。泣いてから覗くと不思議と気持ちが落ち着いたんだよね……」  
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