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湖は鏡のように、私の心を優しく映し出し、つつみこんでくれた。いつまでも泣いてちゃだめだよ、って語りかけられているようだった。
「ふふ。本当に懐かしい」
湖から顔を上げると、風が吹き込み、私の髪をふわりと舞い上げた。その瞬間、脳裏に浮かんだのは私と同じように泣いていた少年の姿。着物を着た美しい少年だった。
『もしもまた出会えたら……するからね?』
少年の姿と一緒に、彼の言葉もぼんやりと思い出す。
「そうよ、ここであの子と出会ったんだ。あれ、でも何を約束したんだっけ?」
必死で思い出そうとしても、なぜか思い出せない。思い出そうとすればするほど、悲しくて泣いていたばかりいた記憶が蘇り、頭が痛くなってくる。辛くなってしまった自分を慰めるように、頭を撫でた。
「思い出せないってことは、本当の記憶じゃなくて、幻影か何かを私が創り出していたのかもね。子供の頃って、そういうことあるって聞くし」
「幻でなければ、鬼っ子? はたまた妖怪変化?」
くすりと笑った。なんだか無性におかしく思えてしまったからだ。
「子供の頃は想像力豊かだもんね、幻覚を本当のことと思ったりもするよね」
自らを納得させるように呟いた。風が心地良く私の頬を撫でる。
「懐かしい場所に来れたからかな。ちょっと元気出たみたい」
これからまた頑張らないと。一人暮らしできるアパートを見つけ、職探しをしなくてはいけないのだから。
「とりあえず今日のところは、どこかの宿に泊まらせてもらおうかな」
決意も新たに身を翻すと、視界に小柄なおばあさんの姿が目に入った。大きな荷物を背中に背負い、ひょこひょこと足を引きずるように歩いている。見るからに辛そうだ。足を痛めてしまったおばあさんが、迷い込んでしまったのかもしれない。
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