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「おばあさん、よろしければお手伝いしましょうか?」
気付くとおばあさんのところに駆け寄り、声をかけていた。懐かしい場所が、私に力をくれたようだ。
「おや、まぁ。よろしいんですか? 足が痛くて、荷物が重くってねぇ」
顔をあげたおばあさんは、辛そうに私を見上げた。お気の毒に、きっと本当に辛いんだ。
「よければ私が荷物をお持ちますよ。どこまで運べばいいですか?」
「まぁ、まぁ。なんてありがたいんでしょう。ではお願いしてもいいですか?」
「はい」
おばあさんは背中から荷物をおろした。その荷物は風呂敷に包まれており、大切そうにそっと私に手渡した。両手で受け取った瞬間、ずっしりと両の手に重さがのしかかる。
「おもっ……」
思わず言葉が出てしまった。想像よりもずっと重いものだったらしい。「私が持ちます」なんて簡単に言ってはいけなかったのかもしれない。
「あの、難しいようでしたら無理には……。御自分の荷物もあるようですし」
一瞬顔をしかめた私を見て、おばあさんは心配になってしまったようだ。
「いいえ。ちゃんとお運びします。落とすといけないので、私も背中に背負っていいですか?」
「はい、それはもう」
「じゃあ、ちょっと失礼して。よいしょっと!」
幸い私の荷物はキャスター付きのスーツケースだ。引きずって歩けばなんとかなる。
「では行きましょう」
「すみません、お願いします」
懐かしい場所で出会ったおばあさんを見捨てることは、なぜかできなかった。
ちょっとぐらい重くてもなんとかなる、気合で運ぶ!
妙に熱くなった心と身体を抱え、おばあさんに導かれるように重い荷物を運んだのだった。
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