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花嫁行列
茜色が残る黄昏の空が、私を優しくいざなう。初めて着る白無垢の花嫁衣装はずしりと重いのに、私のためにあつらえたかのように、しっくりと体になじんでいる。
介添の方に手をひかれながら、私はゆっくりと歩を進め人力車へ乗り込む。車夫は大狸の玄さんだ。
「さぁ、参りますよ。花嫁さん」
私は静かに頷いた。ゆっくりと車が動き始める。狐火がひとつひとつ灯され、暗くなり始めた道を示してくれる。からからと車輪が回り、どこからか子どもたちの声が聞こえてきた。
「物の怪の子どもたちが花嫁さんを見に来とるんですよ」
玄さんが教えてくれた。綿帽子の下からそっと伺うと、うふふと楽しげに笑う声と共に「花嫁さん、きれいね~」という言葉が聞こえてくる。
はっきりと姿はわからないが、楽しそうに後をついてきているのがわかる。
「後であの子たちにお菓子をあげてくださいね」
介添の狸おばさんこと、昌さんにそっと耳打ちする。
「はいはい、花嫁菓子ですね。ちゃんと用意してありますよ」
昌さんはにこにこと笑っている。妖怪のこどもたちの声が、一際高くなっているように思うのは、きっと気のせいではないだろう。
これほど多くの者に祝われたことは、私の人生の中では一度もない。だからこんなにも嬉しくて、なぜか泣けてくるのだろうか?
私は今日、嫁ぐ。
人ならざる夫の元へーー。
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