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「おはよう、レーカちゃん」
2学期始業式の朝、パリッと洗い立ての制服に身を包んだ愛花が、コンビニの角に立っていた。
「おはよう。あ――」
彼女の肌を蹂躙していたアクネ菌が、全滅している。
「ありがと。あのクリーム、凄く効いたよ」
「ふふ。そうでしょ」
もちろん、私の額のトラブルも、既に跡形もない。私達のストレスは、白熊のせいだけではなかったようだ。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
私は、愛花に懇願した。これは、彼女にしか、頼めない。
-*-*-
「ごめんね、レーカちゃん」
「なに謝ってんの。あんたのせいじゃないわよ」
廊下に張り出された掲示を見て、愛花は唇を噛んだ。責任を感じて、肩を小刻みに震わせている。
生徒会役員選挙 投票結果
会長 当選 白熊 翔 1435票
次点 西園寺 麗華 1402票
規定により、次点の者は副会長とする
「仕方ない。1年間、白熊の奴を支えてやるわよ」
彼女の肩を抱いて、頭をポンポンと撫でる。責める気はない。むしろ、感謝している。彼女は全校生徒の前で、私の応援演説を精一杯やってくれた。
「へぇ、そりゃ、心強いなぁ」
いつしか背後に、白熊と黒川が立っていた。ニヤつく白熊を一瞥すると、愛花を離す。
「副学級委員長」
黒川に向き直り、私は右手を差し出した。
「こういうことだから、クラス運営は、あなたに委ねることもあると思うわ。ご協力、よろしくお願いします」
「えっ、あ、ああ……うん。分かった」
ズボンで右手を何度か拭うと、彼は私の掌をキュッと握ってから離した。
「白熊会長」
見上げると、形の良い眉を右側だけつり上げた。
「1年間、よろしくお願いします」
「西園寺副会長。こちらこそ、よろしくお願いします」
私と白熊は、敵意のない眼差しで見詰め合い、握手を交わした。
――次は、負けない。
――次も、負けない。
口には出さないけれど、彼の瞳が好敵手だと認めている。それは、私の瞳も同じ。
-*-*-
放課後、いつものオンライン学習塾にアクセスする。
「こんにちは、川相センセ」
画面の向こうの講師が、ふと笑顔になった。
「レイカ、最近、キレイになった?」
「ええ?」
「表情が柔らかくなったね。肌も艶やかだし」
「ち、ちょっと、センセ。それってセクハラ発言ですよぉ?」
「はは。嫌だった? だけど、本当に凛々しく見えるよ。何かあった?」
私は、悠然と微笑む。
「はい。薔薇は――霞草あってこその薔薇なんだと分かったんです」
【了】
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