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駅前広場のベンチでスマホを眺めながら、もう片手でプラスチックカップを持つ。太いストローからは、カエルのタマゴみたいなタピオカがゾゾッと吸い上げられる。
ベンチの私の隣では、愛花が250円のオレンジジュースを、俯き加減で啜っている。
「でもさぁ、黒川に3票って誰かしらねぇ」
「1票は黒川でしょ、あとは……つるんでるのは田所だっけ?」
「アイツ、身の程知らずよね。麗華さんに勝てると思ってたのかしら」
あからさまな機嫌取り。分かってるけど、それが彼女らのコミュニケーションだから。
「あら、分からないわよ。ライバルなんて沢山いるんだし」
なんてね。勿論、社交辞令。私の他に頂点が相応しい奴なんていない。いいえ、認めない。
「やぁだぁ、秋の生徒会長選だって、麗華さんの楽勝よね!」
「美人で聡明、麗華さん以上の生徒会長なんていないわ!」
盛り上がる2人に向けて、肩をすくめて見せる。
「ありがと……頑張るけど、皆の応援がなくちゃ、難しいわ」
「まっかせて! あたし達、ちゃんと麗華さんに協力するんだから!」
「心強いわ。あ、これ、KITEのリップなんだけど、私似合わなくって。うっかりまとめ買いしちゃったから、良かったら使ってくれないかしら?」
「えっ。春の新作じゃない?」
「いいの、麗華さん?」
いいの、なんて言いながら、瞳はギラギラしてて。彼女達の好みは把握してる。
「フリマで処分するのも面倒だし、もらってくれたら嬉しいわぁ」
「ありがとう!」
「ありがとう、麗華さん!」
おざなりな礼の言葉を口々にして、それぞれリップを受け取った。これくらいで私のために動いてくれるなら、チョロいものよね。
タピオカを飲み終わると、キャアキャア言いながら、2人は帰っていった。私と愛花は、同じ路線だ。家も近所だし、小学校から学校も一緒。
電車を下りてコンビニの角まで来ると、あとは左右に分かれて帰るだけ。
「あ、愛花。あんたにも、これ、あげる」
春色リップ……の試供品。地味な和顔のあんたには、似合わないって分かってるけど。
「え、あたしは」
「いいから、いいから。その代わり、余計なこと言わないでよね」
さしずめ口止め料ってところかな。ま、誰かに何か言うような子じゃないけどね。
「うん……ありがと」
はにかむように微笑んだ途端、揺れた前髪の間から赤い突起が覗いた。
「やだ、あんた、おでこ」
「あっ、うん、ニキビ出来ちゃって」
ササッと慌てて隠しながら、照れ笑いなんか浮かべる。もぅ、だっさいわねぇ。
「酷くなる前に治しなさいよ?」
「えへへ……ありがと、レーカちゃん」
昔っからの舌っ足らずな呼び方でヘラッと笑うと、彼女は左へ駆けていった。
「ちゃんと洗顔すんのよ!」
その背に一言投げて、私は右に歩き出した。
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