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エトワール
進級によって、クラスメイトの顔ぶれが変わり、GWを過ぎると、大抵クラス内カーストは安定する。ここまでに浮上し損ねると、約1年、悪くすると卒業までの約2年間、惨めったらしい底辺の扱いが決まる。カードゲームの大富豪のような革命なんて、現実には望めない。
そんなカーストが安定した5月の終わり、男子に取っては脅威の、女子に取っては胸焦がす星が現れた。
「こんな時期にぃ?」
「タイミング最悪ぅ」
「なんか可哀想かもぉ」
朝のHRが始まると、担任が「転校生だ」と告げた。教室の前ドアが開いた途端、女子達の嘲笑を含んだ雑音は、指揮者が指揮棒を振り上げる瞬間のように見えないオーラに制圧された。
「白熊翔です。よろしく」
圧し殺した溜め息が小波のように広がった。転校生は、身長185cm、体重60kg(推定)、八頭身のモデル体型で、しかもキューティクルばっちりのサラサラヘアに、シュッとシャープな顔立ちのイケメンだ。切れ長にくっきりした二重のアーモンドアイもどことなくミステリアスで、育ちのいいロシアンブルーを思わせた。
「ちょっ……予想外っ」
「ね、いいかもぉ」
私のすぐ前席の中間層女子達が、囁きあっている。けれども、私は――。
「シロクマ……カケル……?」
間違いない。こんなヘンな名前、2人といて堪るものか!
「あー、それじゃ、白熊は窓側のそこの席だ。学校生活で分からないことは、学級委員長の西園寺に聞くといい」
「……西園寺?」
私の左斜め前方の空席まで来ると、彼は担任が指差した私をジッと眺めた。
「へぇ……よろしく」
「……こちらこそ」
形だけの会釈なんか交わして、彼はサッサと席に着いた。真新しい詰め襟を凝視したまま、湧き上がる戦慄に奥歯を噛みしめた。
-*-*-
組み上がったピラミッドをものともせず、白熊の奴ときたら、翔の名の通り、あっという間にカーストを駆け上がった。クールな見た目に反して、彼は人当たりが良く、誰とでも気さくに話した。
いつしか、転校生ながら、次期生徒会長に……という声まで囁かれ始めた。詰まるところ、大衆は新しモノ好きなのだ。
「チヤホヤされてるのも、一時的ですよぉ」
「秋までには、皆、飽きちゃってますよぅ」
右に結萌と、左に波月。2人とも慰め口調で、私の半歩あとから廊下を付いてくる。放課後、部活動の始まる時間。3階の多目的教室の前で、クルリと向き合う。
「ありがとう、2人とも。でも、侮れないわよ、彼」
そう、なんたって、相手はSS80の白熊なんだから。
「今日は、部室寄って帰るから、2人ともここでいいわ。気を付けて帰ってね」
甘い汁を期待できないと分かった彼女らは、あっさりと踵を返した。背中を見送って、廊下の隅に立つ愛花に視線を送る。
「じゃ、行きましょ」
彼女はコクンと頷くと、紙袋を重そうに持ち上げた。
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