24人が本棚に入れています
本棚に追加
月に2回、水曜日の放課後17時半から、各種委員会が開かれる。
私は学級委員会、結萌は美化委員会、波月は保健委員会に出席する。なんの委員でもない愛花は、いつも図書館で時間を潰して、私を待つのが常だった。
「……だから、それっておかしいだろ」
聞き覚えのある声が苛立っている。
「だって……ずっと、そうだったから」
応える声は、愛花。いつもの舌っ足らずな話し方が困っている。
「君は? 君の意思はないのか? いつまでも彼女の言いなりでいいのか?」
責めているのは、白熊だ。
図書館に愛花を迎えに来た私は、書棚の陰で足を止めた。なにを唆しているの?
「俺のことが迷惑ならともかく、『西園寺と帰らなきゃならない』なんて理由、俺は納得出来ない」
「ごめんね、白クン。今日は無理……」
――えっ?
なに? 今の会話。これじゃ、まるで……。
ガタ、ガタン。
しまった。私としたことが、動揺した。触れた本が棚の中でドミノ倒しになっている。
「誰?」
白熊の鋭い声が飛ぶ。私は一息吐いてから、書棚から踏み出した。私の姿を認めると、愛花は泣きそうに瞳を揺らした。
「迎えに来たわよ、愛花」
「あ……レーカちゃん……」
「立ち聞き? 悪趣味だね」
私達の間に、確実に不穏な空気が流れる。敵意剥き出しの白熊は、愛花の隣に座っている。彼女は教科書とノートを前にしていて、まるで勉強を教わっていたみたい。
「フン。いいから、帰るわよ、愛花」
「いい加減にしろよ。彼女にだって、好きに過ごす自由がある」
カタン、と席を立った白熊は、姫を守る騎士気取りで矛先を向けてきた。
「知った口きかないで。この子は私がいないと」
「それともなに? 女王様は、お供がいなきゃ帰れない訳?」
口の端を皮肉の形に歪めて、奴は挑発してきた。
「――はぁっ?」
「図星だろ」
「い、いいの……白クン。あたし、レーカちゃんと」
「良くないよ。君は、ちゃんと自分の意見を言うべきだ」
隣の白熊を見上げて制そうとするも、愛花は立ち上がる気配がない。それが、彼女の意思なのだろう。私は、大きく溜め息を吐く。
「……そうね。もういいわ、愛花。今日から、待たなくていい。勝手に帰りなさいね」
同じ路線で近所だから。一緒に帰るのは、当たり前だと思っていた。
「レーカちゃ……」
愛花はこれ以上見開けないというほど瞳を大きく強張らせ、顔面蒼白になった。
「じゃあねぇ」
笑顔で踵を返し、片手をヒラヒラと振って――退場する。
愛花は、私の親友――という名の引き立て役。私が薔薇なら、彼女は霞草。だけど、薔薇を食うような霞草なんか、もう要らない。
最初のコメントを投稿しよう!