エトワール

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 月に2回、水曜日の放課後17時半から、各種委員会が開かれる。  私は学級委員会、結萌は美化委員会、波月は保健委員会に出席する。なんの委員でもない愛花は、いつも図書館で時間を潰して、私を待つのが常だった。 「……だから、それっておかしいだろ」  聞き覚えのある声が苛立っている。 「だって……ずっと、そうだったから」  応える声は、愛花。いつもの舌っ足らずな話し方が困っている。 「君は? 君の意思はないのか? いつまでも彼女の言いなりでいいのか?」  責めているのは、白熊だ。  図書館に愛花を迎えに来た私は、書棚の陰で足を止めた。なにを唆しているの? 「俺のことが迷惑ならともかく、『西園寺と帰らなきゃならない』なんて理由、俺は納得出来ない」 「ごめんね、(しろ)クン。今日は無理……」  ――えっ?  なに? 今の会話。これじゃ、まるで……。  ガタ、ガタン。  しまった。私としたことが、動揺した。触れた本が棚の中でドミノ倒しになっている。 「誰?」  白熊の鋭い声が飛ぶ。私は一息吐いてから、書棚から踏み出した。私の姿を認めると、愛花は泣きそうに瞳を揺らした。 「迎えに来たわよ、愛花」 「あ……レーカちゃん……」 「立ち聞き? 悪趣味だね」  私達の間に、確実に不穏な空気が流れる。敵意剥き出しの白熊は、愛花の隣に座っている。彼女は教科書とノートを前にしていて、まるで勉強を教わっていたみたい。 「フン。いいから、帰るわよ、愛花」 「いい加減にしろよ。彼女にだって、好きに過ごす自由がある」  カタン、と席を立った白熊は、姫を守る騎士(ナイト)気取りで矛先を向けてきた。 「知った口きかないで。この子は私がいないと」 「それともなに? 女王様は、お供がいなきゃ帰れない訳?」  口の端を皮肉の形に歪めて、奴は挑発してきた。 「――はぁっ?」 「図星だろ」 「い、いいの……白クン。あたし、レーカちゃんと」 「良くないよ。君は、ちゃんと自分の意見を言うべきだ」  隣の白熊を見上げて制そうとするも、愛花は立ち上がる気配がない。それが、彼女の意思なのだろう。私は、大きく溜め息を吐く。 「……そうね。もういいわ、愛花。今日から、待たなくていい。勝手に帰りなさいね」  同じ路線で近所だから。一緒に帰るのは、当たり前だと思っていた。 「レーカちゃ……」  愛花はこれ以上見開けないというほど瞳を大きく強張らせ、顔面蒼白になった。 「じゃあねぇ」  笑顔で踵を返し、片手をヒラヒラと振って――退場する。  愛花は、私の親友――という名の引き立て役。私が薔薇なら、彼女は霞草。だけど、薔薇(主役)を食うような霞草(脇役)なんか、もう要らない。
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