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prologue
部活動という肩書きを失ってから、随分と昼休みが長くなった気がする。この世には夏休みデビューというあか抜けた褒め言葉があるらしいが、どうやら俺は真逆の人生を歩んでいるらしい。
だってそうだろう。そんな潮流に乗っかっているのならば十分間の休憩時間でさえ目に映る景色はさぞ輝かしいに違いないのだから。二学期に入ってからというものの、俺の学園生活は早々に暗礁へと乗り上げようとしていた。
否、認める勇気がないだけで既に手遅れなのかもしれない。
退屈なのはなにも昼に限ったことではない。休憩時間と名のつくもの、ホームルームの待ち時間、持て余す時間のすべてがその対象だ。部活に全身全霊を捧げた結果、友達作りをおざなりにした俺には大して友人と呼べる者もおらず、かといって読書の趣味もなく携帯ゲームに逃げることもしない。
そんな俺にとって、いきなり生まれた自由という時間は暇や怠惰にしか置き換えようのないものだった。
朝練がなければ疲れて睡魔に襲われることもなく、今までは必然としていた睡眠時間も興味のない授業だけで十分に事足りる。よって、昼食後の休憩時間に机に伏せて寝るという選択肢もここで自動的に消滅する。
残り一年半の学園生活は、道のりだけがいたずらに長く、そこに望むことも多くはない。友情・努力・勝利の類を部活動で賄った俺に、今更、学園生活で求めることなど果たしてあるだろうか。俺こと八ツ坂勇樹は自身に問う。
実はなくはない。というか、ひとつだけは確実にあったりする。それはぼんやりとして輪郭のない感情だけれど、何を指し示すものであるかは機微に疎い俺でもわかる。だからこそ今日も俺の目線と聞き耳は、気がつけば同じ方角になっているのだ。
「でさ、ここが可愛いんだよね」
「うんうん。そうだね、わかるよ」
昼食以外に特に会話することがない俺にとって、教室という世界は無人のスタジアムの中央で一人突っ立っている感覚さえ覚える場所だ。それが故に良い意味でも悪い意味でも他人の声がよく聞こえる。
クラス替え早々の新学期なら気軽にクラスメイトへ声を掛けることもできただろうが、季節は夏休み明けの二学期。時間は残酷なまでにとうとうと経過してその機会も過ぎ去っている。
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