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ハエトリグモ
最後に潰した一匹のアリを流しに弾き飛ばしたばかりのところで初めて気づいた。流しの底、排水口の近くにハエトリグモがいた。
見た目は普通のハエトリグモだった。小さくて光っている目、毛深い足、腹にかすかにオレンジ色。意外と美しくて、数秒間更に目を凝らして見つめた。
クモは緊張しているように、急に走ったり止まったりしながら排水口から離れた。私はアリの亡骸を流したくて蛇口を見たが、そうしたらクモも殺してしまうかもしれない。それが嫌だった。ずっと前からクモが好きだから。
首を振ってキッチンから出ようと思ったら、叫び声が聞こえた。後ろから。
「ありがとうございます」
それは強いけどちっとも怖くない声だ。私はその後でどうなるかも知らずに挨拶を返した。
「下ですよ」
今度は手前から声がした。
私はあたりを見渡して、目の前のカウンターの上で何かが動いていることに気づいた。縁の近くに座っていたのは、先程見かけた腹にオレンジ色の箇所を持っているクモだった。
「ここです」
その瞬間、私は現実に起きている事をやっと把握した。この小さいクモが私に話しかけている。そこで座ったまま、小さい目で私を見ているのだ。私に取れる選択肢は一つだけだった。
「あなた、私と話せるの?」
返事は数秒後にきた。
「はい、私にはその能力があります。あなたのおかげです。親切にも、私を殺さなかったのです」
「まぁ、ずっと前から私、クモが好きなんです」
「そしてあなたは、アリたちと同じ運命から救ってくれました。だから私はあなたに借りがあります」
これはあまりにもおかしな状況だった。しかし私は続けた。
「借り?」
クモは、私のクロオオアリ問題を解決してくれると言った。今、私が大嫌いな小さなあいつら。毎年夏になると彼らは必ず家に入ってくる。今夜一晩寝て、明日の朝になったらクモが面白いものを見せてくれるという。
翌日、階段を降りてキッチンに入ったら足の裏に何かが付いているような気がした。確認してみると、胡椒のようなものだった。私はそれを拭き落として、キッチンの床に気づいた。どこを見ても不思議な粉だらけ。虫眼鏡を取ってきて、もっとよく見てみた。
アリの亡骸だ。というより、死んだアリの断片。頭部、胸部、足。まるで戦場のようにあっちこっちに散らかっていた。
「いかがですか?」
私はクモに素晴らしいと答えた。そうだ。私がこの純粋な大虐殺を認めたのだ。こんな奴ら、みんな死ねばいい。
私は床を掃除しながら、クモにもっと大きな願いを言ってみた。
「ウザい隣人がいてさ...」
クモは言った。
翌朝になったら面白いものを見せてあげる。
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