第四章 入学と親友

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「本当にムカつく!」 僕はイライラした気持ちのまま、1人、職員室へと向かっていた。 オリエンテーションが終わり、僕は自転車通学の許可書を貰いに職員室へと歩いていた。 すると 「あ!居た!赤地蒼介!」 って、フルネームで呼ばれる。 僕が振り向くと、生徒会長の冴木先輩が凄い形相で走り込んできた。 そして僕の両手を握ると 「好きだ!付き合ってくれ!」 そう言ったのだ。 唖然としていると 「信じられるか?俺は生まれて初めて、一目惚れという奴をした。赤地蒼介、お前を見た瞬間、天使が空から舞い降りて来たかと思った」 冴木会長は僕が呆気に取られている間にも、ずっとこんな事を言い続けている。 「あの…、僕は男ですよ」 やっと絞り出した言葉に 「俺は構わない!」 と、僕の手を握り締めたまま、真剣に言われてしまう。誰か…悪夢だと言って欲しい。 目眩を起こしそうになっていると、副会長の津久井先輩が近付いて来て拳を振り上げた。 『ゴツ』っと鈍い音が辺りに響く。 音と同時に、冴木会長が頭を抱えてすわりこんだ。 「すみません。うちの生徒会長(バカ)が大変失礼致しました。」 そう言うと、冴木会長の首根っこを掴んで歩き出した。 「お前、今、生徒会長にバカってフリガナ振っただろう!」 「馬鹿にバカと言って、何が悪いんですか!」 「大体、俺は次期、冴木家の当主になるんだぞ!その人間に拳を奮うとは、どういう事か分かってるんだろうな!」 「ハイハイ。苦情はこの後、たっぷり伺います。彼は一般入学生なんですよ。この学校のしきたりや暗黙のルールを知りません。その彼に、あなたが突然、そんな事を言っても驚かせるだけです!」 生徒会長と副会長のやり取りを、僕は驚いて見ていた。 この学校のしきたり? 普通の学校と何かが違うのか? 2人の言い争いを呆然と見ていると、 津久井先輩が僕に視線を向けた。 そして冴木会長の首根っこを掴んだまま 「大変申し訳ございませんでした。このお詫びは又、後日」 と言い残し、冴木先輩を引き摺りながら行ってしまった。 唖然として二人を見送り、僕は職員室で自転車通学申請書を手に教室へと戻った。 すると秋月が待っていて 「何?お前の家って近所な訳?」 と、僕の申請書を見て聞いて来た。 「何で僕がその質問に答えなくちゃいけない訳?」 ムっとして答えると 「まぁ、良いや。取り敢えず、今日は送ってくから」 そう言って、そいつは僕の手を掴んで歩き出した。 「はぁ?なんで僕がお前に送られなくちゃならないんだよ!」 「はぁ?待ってた人間に、なんでそんな態度なんだよ!可愛くない!」 僕の口調を真似て、秋月は送迎車用の駐車場へと歩き出す。 「田中、連れて来たよ」 秋月はそう言うと、車で待っていたあの人に声を掛けた。 するとあの人は車から出て来て 「すみません。翔さんにお願いして、ご挨拶させて頂きたくてお呼び出し致しました」 田中と呼ばれたあの人は、にっこりと微笑みそう伝えた。 「え?」 驚いていると、あの人は笑顔を崩さずに 「翔さんがこの学校へ入学して下さったのは、あなたのお蔭ですので…」 そう言った。 「本日は、お礼にご自宅まで送らせて頂けませんか?」 深々お辞儀をされて言われたら…さすがに断れない。 僕は田中と呼ばれているあの人を立てて、送ってもらう事にした。 住所を言うと、秋月は 「お前、そこから自転車で通うつもりなのか?」 驚いたように叫んだ。 僕が無言でいると 「田中、明日からこいつも一緒に送ってくれる?」 と、秋月が言い出した。 「え!何で?」 思わず叫んだ僕に 「電車通学したくないんだろ?その住所なら、丁度通り道だし」 と続けた。 「嫌、そんな迷惑は…」 そう断り掛けると、運転席から 「かしこまりました。では、明日から送迎させて頂きますね」 と、笑顔で言われてしまう。 (…どうしよう) 困っていると 「翔さんが学校をさぼる口実が無くなるので、一緒に登校して頂けると私も助かります」 と、言われてしまう。 実際、自宅に到着すると、田中さんは母さんに自分の名刺を差し出し事情を説明して、これから毎日送迎してくれる約束までしてしまった。 「良かったわね~。お兄ちゃん、電車に乗ると痴漢に遭って大変なんです。」 って、母さんまで笑顔で許可してしまって断れなくなった。 「では、明日から宜しくお願い致しますね。赤地様」 そう言って微笑んで、車へと戻って行った。 「凄いイケメンね~。モデルさんみたい」 母さんは頬を赤らめて言いながら、名刺を見ていた。 「あら?あの方、運転手さんじゃなくて社長秘書さんだったのね」 母さんはそう言って、その名刺を僕に見せる事無く大切そうに引き出しへとしまった。 この時はまだ、まさか翔と親友になるなんて思ってもみなかった。
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