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僕は苦笑いを浮かべて
「絵のモデルになるような人間では無いので…」
そう言って、手渡された鍵を絵具が置いてあるテーブルへと置いた。
すると突然、腕を掴まれ
「何を言ってるんですか?こんな綺麗な顔をして…。鍵は持って行って下さい。必要な時が来る筈ですから…」
そう言ってポケットへと鍵を無理矢理入れられてしまう。
「失礼しました」
僕が準備室を出る頃には、永田先生は無心でキャンパスに向かって絵を描き始めていた。
(悪い人じゃないのかもしれないな…)
ドアを閉めながら、溜息を吐いた。
冴木会長の気配が無いので、教室へと戻る。
すると机の上には、何処から持って来たのか真っ赤なバラの花束と手紙が置かれている。
「…これ」
「あぁ、冴木会長が置いてった。『私の想いは、こんな物では伝えられない!』って言いながらな…。」
秋月が冴木会長のモノマネをしながら、答えた。
「今日だけで、花束幾つ持ってくるんだよ…」
ぼやいた僕に、
「素敵じゃないですか!さすが冴木会長ですわよね~。」
女子が目を輝かせて呟く。
「蒼介様は、真っ赤なバラの花が良くお似合いですわ」
他の女子の言葉に、僕の目が点になる。
「え?」
「真っ赤なバラがお似合いになると言ったのですが?」
思わず聞き返した僕に、うっとりした顔の女子が繰り返した。
僕が
「嫌、そこじゃなくて…僕の事…」
戸惑って聞くと
「蒼介様だなんて、慣れ慣れしかったですか?申し訳ございません。では…赤地様と…」
そう答えられた。
「えっと…、同じクラスだよね?」
「はい」
「クラスメイトに様って…変じゃない?」
思わず聞いた僕に
「何をおっしゃっていらっしゃるのですか!」
と、突然、彼女が立ち上がって叫んだ。
「蒼介様を初めて入学式で拝見した時、絵本の王子様が目の前に現れたかと思いましたわ」
「何をおっしゃっていらっしゃるの?蒼介様は天使様ですわ!王子様なんて所詮、人間ではないですか!」
「天使様…」
うっとりとした顔で、クラスの女子が僕の顔を見る。
僕が助けを求めて秋月を見ると、楽しそうにクスクス笑っている。
「良いんじゃね~の?天使様」
の言葉の後に、秋月がぷっと吹き出した。
「冴木会長が夢中になるのも、わかりましてよ」
「そうそう。私なんて、同じクラスになって、他のクラスの方々から羨ましがられますもの~」
(誰か…嘘だと言って欲しい)
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