第五章 張り巡らされた罠

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秋月は入学前から剣道部に通っていて、実は中学時代に全国大会に出た位の凄い奴だったというのは後から知ることになる。 この学校は全て単位制になっていて、部活か生徒会活動を必ず一年はやらなくてはならなくて、どうしようかと悩んでいた。 運動音痴では無いけれど、運動部に入るほど運動好きでは無いので文化部を回ってみる。 色々な部活があると迷っていると、美術部の前に来ていた。 「絵か…」 ぼんやりと考えながら美術室を覗いてみた。 すると永田先生が僕に気付き 「やぁ…どうしたの?」 っと、声を掛けて来た。 「部活を悩んでいて…」 ぽつりと呟くと 「そう言えば…私が担当ではないけど、選択授業は美術だったよね」 永田先生に言われて頷く。 僕達の担任が美術教師の為、僕達のクラスは担任の磯部先生が美術を受け持っている。 「絵、好きなの?」 永田先生に聞かれて 「う~ん…音楽は人前で歌うのが嫌で、書道は苦手なので…消去法で美術になりました」 思わず素直に答えると、永田先生は吹き出して 「美術講師の前で、消去法で美術を選択したと答えるなんて凄いね」 と笑っている。 クラスは選択授業でクラス分けされていて、うちのクラスは美術選択の奴らが集まっている。 確か…秋月と荻野も、僕と同じ理由だったような気がする…。 「まぁ、良い。入って中を見学していけば?」 促されて中に入る。 美術部の人は、みんなそれぞれとても絵が上手で、キャンパスに向かって絵を描いている姿が本当に楽しそうだった。 「先生、此処の色なんですけど…」 永田先生は美術部の人に声を掛けられると、親身になって受け答えしていた。 (何だ…、良い先生じゃなか…) 僕はそう思いながら、永田先生に会釈をして美術部を後にした。 すると背後から 「居た!赤地蒼介!」 と、聞き覚えのある声が聞こえる。 僕がうんざりした顔で振り向くと、今回は手に何も持たずに津久井先輩を伴って現れた。 「?」 僕が疑問の視線を投げると 「実はきみにお願いがあって探していたんだ」 口を開こうとした冴木会長を押し退けて、津久井先輩が僕に話しかけて来た。 「お願い?」 「そう。実は、この馬鹿…ゴホッ、失礼。会長の推薦で、生徒会の仕事を手伝ってみないか?」 馬鹿と言った後、咳払いをして言い直す津久井先輩に僕が思わず吹き出すと 「どうかな?もちろん、こいつがきみに危害を加えないと約束する」 津久井先輩は微笑んで続けた。 「生徒会ですか?何で僕ですか?」 疑問に思って尋ねると 「正直、この学校には俺達では変えられないしきたりがある。でも、外部入学のきみなら、この学校を変えられると思ってね」 真剣に話す津久井先輩に 「でも…外部入学は他にもたくさんいるんじゃ…」 と答えると 「全教科満点、首席入学…という肩書が必要なんだよ」 津久井先輩はそう言ってウインクした。 「なるほど…」 僕が頷くと 「部活に悩んでいるようだったし、生徒会活動は単位取得にもなる。どうかな?少し、頭の片隅に置いてもらえないかな?」 と、津久井先輩が続けた。 すると 「俺は赤地じゃないと嫌だ!」 津久井先輩の隣で、冴木会長が駄々をこねている。 この学校…生徒会長の人選、間違ってないだろうか? 僕が首を傾げて二人を見ていると、冴木会長は僕の両手を掴み 「誓って、きみに不埒な行為などしない。だから、是非生徒会に来て欲しい。男ばかりのむさ苦しい生徒会に、赤地蒼介が居てくれたら潤うのだよ!」 キラキラした瞳で言われて、僕は苦笑いを返す。 すると津久井先輩がこぶしを振り上げて、冴木会長の頭へと落とした。 『ゴツ』っと痛そうな音が鳴り、冴木会長がその場に座り込む。 「ですから!それが嫌がられていると、何度言ったら分かるんですか!」 津久井先輩の言葉に、冴木会長が涙目になりながら 「好きなら…触れたいと思うだろう?別に、手くらい良いじゃないか!」 と叫んだ。 「あなたね…」 津久井先輩は冴木会長の言葉に溜息を吐きながらそう言うと 「確かにあなたは好きかもしれません。でも、赤地君はあなたを好きじゃないんです!それで会う度にベタベタベタベタ触られたら、気持ち悪いだけです!」 と続けた。 「ベタベタって…」 悲しそうに呟く冴木会長に、津久井先輩は冷たい視線のまま 「今のあなたは、赤地君にとってはセクハラ親父と一緒です!」 と言い放った。 すると冴木会長は 「俺が…セクハラ親父?」 そう呟いて、フラフラと立ち上がって歩き出す。 津久井先輩は呆れた顔をして冴木会長を一瞥すると 「取り敢えず、あの生徒会長(バカ)は気にしないで下さい。本当に、少しだけ考えてくれたら嬉しいです」 津久井先輩はそう言い残すと、ペコリとお辞儀をしてフラフラ歩いている冴木会長の首根っこを掴むと去って行った。 「生徒会か…。」 ぽつりと呟いていると、植木の植え込みからひょこっと頭が出て来た。
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