第二章 裏切り

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第二章 裏切り

あれは中学三年の暑い夏の日。 僕と結城は成績も一位と二位を互いに競い合う関係で、同じ高校に行こうと約束していた。 お互い、県立の有名進学校の南高校を受験するので、文系の僕と理数系が得意な結城は苦手科目を教え合っていた。 この日は勉強が白熱しすぎて、気が付いたら夜遅くなってしまう。 帰宅しようとした僕に、結城のご両親から泊まるように勧められ、急遽、結城の家に泊まる事になった。 「蒼介、着替えはこれで良い?」 着替えなんて持参していない僕に、結城が自分のパジャマを持って来た。 「俺のだから、デカいと思うけど」 の言葉にムっとしながら 「どうせ、僕はヒョロヒョロで弱っちい身体だよ」 と言いながら、結城のパジャマを受け取る。 「そんな事、誰も言ってないだろう! お前、被害妄想強すぎなんだよ!」 そう言って、僕の首を抱え込んで頭をくしゃくしゃになるほどかき回される。 結城はスキンシップが多い奴だった。 でも、僕自身もあおちゃんのお母さんである京子さんの影響で、あおちゃんとスキンシップが多かったから特に気にした事が無かった。 結城に連れられ、結城の家の浴室をお借りする。 結城の家には、結城より3つ年上のお兄さんが居るのだが、この日は合宿に行っているらしく留守だった。 結城家は一階にご両親の寝室、2階がリビングと浴室等の水回り。 3階が結城兄弟の部屋が左右に分かれて有る。 結城の部屋は左側にある6畳間だった。 入口の最奥に大きな窓が一つあり、窓辺に勉強机。 ベッドは左側の壁に置かれ、反対側にオーディオラック。 真ん中にテーブルが置いてあった。 お風呂をお借りして結城の部屋に戻ると、僕が泊まる為にテーブルは片付けられて布団が敷かれていた。 「蒼介、家ではベッドなんだろう?俺のベッド使って良いよ」 結城に言われて、 「それは悪いから…」 と遠慮すると、 「お前、布団だと身体が痛くなるって言ってだろう?俺は何処でも大丈夫だから、遠慮するなよ」 そう言って、枕を交換してくれた。 「ベッドのシーツやカバーも替えてあるから、安心して」 「そ…そういう意味じゃないよ!」 ムキになって反論する僕に笑いながら、結城は頭をくしゃくしゃになるまで撫でて 「じゃあ、俺も風呂に入ってくるから、その間、蒼介はテレビでも見てて…」 結城がそう言ってテレビをつけると、部屋を出て行った。 「あいつ、いつもこうやってテレビ見てるな…」 結城の普段の生活が垣間見れて小さく微笑む。 気が付くと、ウトウトとまどろんでしまったようだった。 すると頬に水滴が当たる。 目を開けると、結城がベッドに座り僕の顔を覗き込んでいた。 「結城?」 目を擦りながら目を開けると 「あ、ごめん。起こしたか?」 首からバスタオルを下げ、上半身裸の結城が笑う。 「お前、髪の毛濡れたままじゃないか」 僕が結城の首に掛かっているバスタオルを頭に被せて 「ちゃんと乾かさないと、この部屋は冷房が効いてるんだから風邪引くぞ」 と言いながら頭をわしゃわしゃと拭いてやる。 その時、結城の漆黒の短い髪の毛の感触を初めて知る。 「お前の髪の毛、固いんだな」 思わず呟いた僕に、結城は髪の毛を拭いている僕の手を急に掴んだ。 見た事の無い真剣な顔に 「何?」 思わず恐怖心が起こり顔を強張らせると、結城は笑い出して 「何ビビッてるんだよ、お前!」 そう言って、僕の髪の毛をくしゃくしゃにするまで撫でる。 「結城!止めて」 バタバタと暴れていると、突然、抱き締められた。 「結城?」 びっくりして固まると 「お前の髪の毛、柔らかくてララを触ってるみたいだ」 髪の毛を撫でながら、結城が耳元で囁いた。 「ララって…」 「そう、うちのチワワ。お前、似てるよな」 笑う結城に、僕は 「ふざけるな!」 そう言って、結城の両頬を引っ張った。 「ひょうふけ(蒼介)…ひふぁい(痛い)…」 引っ張られた状態で言う結城に、僕が吹き出すと 「酷いな…蒼介は…」 そう言いながら、僕と結城は顔を見合わせて笑っていた。 僕はずっと…信じていた。 結城は、僕を他の男友達と同じように思ってくれているって…。 時間がてっぺんを回った頃、結城の『そろそろ寝るか』の声で電気を消した。 暗闇の中でポツリポツリと会話をしているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだった。
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