第十三章 重なる偶然

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聞きたいけど、翔からは「何も聞くな」って空気が出ていて聞けない。 …安井さんも、翔がこの状態で答えてくれる訳は無い。 僕は溜息を吐いて車から窓の外を眺めた。 あの日から、僕の目に映る世界は全て白黒になってしまった。 嫌、多分色はあるんだと思う。 でも、何も感じない。 ただ、目の前を流れるだけの景色を見ていた。 学校の勉強、演劇の練習と生徒会のお手伝いで毎日が過ぎて行く。 こうして毎日を過ごして行けば、いつしか忘れるのだろうか? 朝、クラスに行くと女子が翔の周りを囲みだし 「翔様、見ましたわよ。いつも車を運転していらした方、今日、テレビに出ていらっしゃいましたわ。元、モデルでしたのね…。しかも、お父様の秘書でしたのね」 キャッキャと話し掛けられて、翔が僕の顔を見た。 「悪い。俺、朝はテレビ見てねぇし…。田中がテレビに出る話、聞いてなかったんだ」 心配そうに言われて、僕は小さく微笑んで『大丈夫』って書いてあるノートのページを開く。 最近、よく使う言葉はメモ帳に既に書いておいて見せるようになった。 「だからか…」 ぽつりと呟くと 「安井には敵わないな…」 って続けた。 僕の声が出なくなってから、みんなが腫物に触るように扱う。 冴木会長は罪悪感を感じてしまったらしく、あの日以来、僕にふざけて抱き付く事もしなくなった。 他の生徒会の人達も、普通に接してくれているように扱ってくれているのが分かる。 授業が終わると、突然、翔に腕を掴まれた。 「?」 疑問に思って見上げると 「今日、お前に頼みたい事があるんだ」 真剣な顔で言われて首を傾げる。 「今、大ピンチなんだ。お前にしか頼めない事なんだよ」 珍しく真剣に言われて、思わず頷いた瞬間 「っという事で、失礼します!」 と、知らない女性が数名現れて、一人が僕の顎を掴み 「翔様、ご協力ありがとうございます!」 そう言ったかと思うと、僕は意味も分からないまま演劇部の部室へと連れて行かれる。 部室に入るなり、椅子に座らされて何やら顔を拭かれた後に水っぽい物をパタパタと綿に湿らせてから顔にピタピタ当てられる。 「すみません!失礼致します!」 と言われて、何故か女性に制服のボタンを外されそうになる。 慌てて立ち上がると 「変な事しませんから!大人しくしてください!」 って怒られて思わず席に戻る。 身包み剥がされて、明らかに女性の下着を着けろと言われた。 意味が分からずにいると、強引に下着を着けさせられる。 胸元には水で濡らしたパッドを付けられ、ピッタリと胸に貼り付いた偽物の胸の感触に眉をしかめると、腰をギリギリと締めつけられる。 声が出ないから悲鳴は上がらないが、殺されるかと思った。 「すみません。こちらは自分で履いて下さい」 冷静な顔でお尻の所にパッドが入った下着を渡される。 「????」 涙目になってお姉さん達を見ると 「お願いします!時間が無いんです!」 そう叫ばれて、仕方なく足を通す。 …屈辱以外の何ものでもない。 白いガーターベルトの着いた下着を着させられ、太ももまでのストッキングを履かされる。この時点で、何をされるのかを理解した。 出された女性物のワンピースを着ると、お姉さん達は 「これだけでも行けそう。若いから、肌もつやつやだし…」 そう言いながら、顔のメイクをしながら頭にカツラを被せる。 ヘアメイク担当の二人が、テキパキと僕のメイクを施していく。 メイクを始めた頃から、いつの間にか演劇部の人達がプロのメイクを見つめて居る。 演劇部にもメイク担当の人が居るけど、現場のプロのメイクが見られると凄い人数に見られながらのメイクに僕の方が落ち着かない。 着け睫毛をされて、口紅を塗られる。 「はい!出来上がり」 鏡を手渡され、鏡に写る自分に泣きたくなった。 ちゃんとしたメイクは現場でするらしく、ナチュラルメイクに見られるようなメイクを施されていた。 「蒼介様、美しいですわ~」 西園寺が写真を撮りながら 「ですが…これですと大人っぽいジュリエットになってしまいますわね…」 と、残念そうに言われる。 するとメイクさん達が 「今回、協力して頂いたので、今日の撮影が成功したら、文化祭当日に私達がメイクしに来ますよ」 なんて言ったもんだから、西園寺さんに手を握られて 「蒼介様、しっかりお役目を果たして下さいませね!」 って言われてしまう。 もう、完全に逃げられない状況を作られて翔を睨む。 「お前、声が出ないから田中にもバレないよ」 大丈夫、大丈夫って翔に言われて、僕はお姉さん達に逃げられないように両腕を掴まれてタクシーに乗せられた。 「胸のパッドも、本物そっくりな特殊加工のモノを使っていますから、脱がなければバレません。安心して下さいね。」 って言われて、 「では、宜しくお願いしますね…、透子さん」 と笑顔で言われた。
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